雪の舞う駅の前で (1/1)


 花宮の誕生日に、待ち合わせをして出掛けることになった。
 少しでも遅れようものなら、遅れた秒数×10倍くらいの嫌みを言われる気がするので、待ち合わせ10分前に着くように行ったのだが──

『おぉ、花宮。早いな』

 既に花宮は待ち合わせのカフェにいた。
 不機嫌そうに眉を寄せて、チョコレートをかじっている。

「……遅い」

『え?』

「俺を30分も待たせるなんて、良い度胸じゃねぇか。…なぁ?」

 挨拶しただけで、身に覚えの無い文句を言われながら腕に技をかけられるとは何事だ。一応彼氏なのに!

『痛い痛い痛い痛い痛い! 花宮、そこ曲がらないから! 俺の骨の関節が増えちゃうから! てゆーかまだ待ち合わせの10分前じゃんっ』

「バァカ。俺が来た時間が集合時間なんだよ」

 なんて横暴なんだ。てゆーか……

『待ち合わせの40分も前からいたのか?』

「……ベ、別に楽しみだったから早く起きすぎて、家にいても落ち着かないから待ち合わせの場所で待ってた訳じゃないからな!? 30分も駅の方見てたとかそんなことはっ」

 赤面しながら早口でツンデレの代表的なセリフをまくし立て、ざっぱんざっぱん目を泳がせている花宮を抱きしめ、頬擦りをする。

『はーなーみーやぁあぁぁあ! なんて可愛いんだお前はっ』

「テメェは……公共の場で何しやがるんだよ!!」

『あいたっ』

殴られた。が、痛くはない。

『だって、お前が可愛いこと言うからだろ?』

「……俺を可愛いと思うお前の脳みそは腐ってんじゃねぇのか?」

『可愛いって、言われたことないのか?』

「あるわけねぇだろ」

『それは良かった』

「……何が良かったんだよ」

 意味がわからない、と言うようにこちらを見上げてくる花宮の耳元で、低く囁く。

『だって、真の可愛い所、俺しか知らないんだろう? 悪い虫はつかないし、独り占めできるしで最高じゃないか』

「………言ってろ、バァカ!」

 耳を押さえながら俺と反対側を向いてしまった花宮のうなじは、ほんのり赤く色付いていた。







『真、行こうか』

 花宮と手を繋ぐ。すっかり冷えてしまった手に、体温を分け与えるように。

『誕生日だからなー、好きなとこ連れてってやるよ。』

「…………で、いい……」

『ん?』

「お前の部屋で……いい…」

『……そうか。飯はどうする?』

「飯の前に、コーヒー飲みたい」

『はいはい。お前の好きなブラックコーヒー淹れてやるよ。あんまり飲むと胃を痛めるから、一杯だけだぞ』

「わかってる」

『その代わり、帰ったら、いっぱい甘やかしてやる』

「…うん」


──『誕生日だから。』
その言い訳を使って、今日はこのワガママで陰険で可愛い恋人を、おもいっきり愛でてやろう。
雪の舞う駅の前で、そう誓った。


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