-静かに降ってきた口づけを柔らかく受け止めて-



「名前、」


縁側からの日差しにウトウトしていると、アーチャーが呆れた様子で私を見下ろしていた。
ウトウトしていたのがばれたのかなぁと笑って誤魔化してみたが、ため息をつかれるだけ。むうっと拗ねたように唇を突き出すと、アーチャーは持っていたお盆から何かを移動させ、私の目の前に置いた。


「わぁ、」

「疲れた時には甘いものなのだろう?」

「−食べていいの?」

「それは君のために買ってきたものなのだが、いらないというのなら「いる!!」」


食い気味に言うと彼は一瞬きょとんとして、さっきとは違うしょうがないなと言わんばかりの呆れ顔をして紅茶もお供として出してくれた。
お盆に紅茶とケーキが乗ってるって和洋折衷だよなぁ…でもアーチャーが持ってると様になっちゃうんだから、イケメンってすごいって思った私は普通の感覚だと思う。


「それにしても、なんでこれ選んできたの?私アーチャーに好きなケーキ言ったっけ」

「・・・それを見たとき、なぜか君の顔が浮かんだんだ。君の好きなものでよかったよ」

「へぇー、そんな偶然もあるんだねぇ」


モグモグと私はドボシュトルタを食べ進めるが、私がどうして?って聞いたとき一瞬だけアーチャーが寂しそうな顔をしたのを見逃さなかった。アーチャーはときどき私と会話するとき、哀愁に満ちたそれでいて迷子の子供のような顔をする時がある。そのどれもが一瞬で、最初のうちは気づかなかったけど、たぶん初めて会った時もそんな顔をしてたと思う。記憶が曖昧なのは、なぜだかその時のことをうまく思い出すことができないからだ。記憶力には自信があったつもりなのに。起きたら起きたで士郎の顔は真っ青で大丈夫か!?ばっかり言うし、あの後セイバーちゃんと凛ちゃんにうまく丸め込まれて何があったのか聞けないままだ。仲間外れはよくないと思いまーす!!


「名前?」


悶々と脳内で愚痴をこぼしていると、動きでも止まっていたんだろう。アーチャーが心配そうに私の名前を呼んだ。
どうも彼に名前を呼ばれると弱い、心臓のあたりがきゅうってなる。
大丈夫だよ、と笑ってみせると、彼は小さく笑って紅茶のおかわりを勧めてくれたのでありがたく頂戴しておく


「さて、名前」

「うん?」

「腹も膨れたところだし、君は昼寝でもしてきたらどうかね」

「え、」


食べてすぐ寝たら豚になっちゃうんだよ!とは言いづらいほどの真剣なトーンだったので、ケーキの甘さをとる為に飲んでいた紅茶のカップを口から話す。
体面に座っているアーチャーは腕を組んで、すっと目を閉じた。やばい、説教はじまるかな・・・と私は身構えた


「先程ここでウトウトしていただろう。試験勉強も必要なことだとは思うが根を詰めすぎるとあらぬことで怪我を負ったり、事故にあったりするぞ」

「ありがと、アーチャー。でも」


説教ではなく、ただ単に心配しているようだったので私は構えを解き、彼を説き伏せることにした。確かに少し、いや日向に出るとかなり眠いけど私の今後の人生がかかっているのだから、多少無理をしてでも頑張らなければ。私の必死さが分かれば、アーチャーも解ってくれるはずだ、と意気込んだ矢先


「あれも凛も心配しているぞ。君の部屋は最近遅くまで電気がついているし、次の日目の下に隈を作って起きてくることも多くなっている。」

「うっ」


痛いところを突かれてしまった。このうちの中で誰よりも私を心配しているのは士郎だし、お客さんである凛ちゃんにまで心配をかけていることが私の良心をグリグリ抉る。
でも私にだって主張したいことはあるのだ


「で、でもさ夜士郎に家事まかせっきりだし、昼間くらい家のことしなくちゃなぁ〜、なんて思うんですよ。それにそのーやっぱり勉強もしたいし、お昼寝はちょっと」

「昼間の家事は私に任せておけばいい」

「いやでも、アーチャーは一応凛ちゃんの従者でしょ?お客さんでもあるし・・・」

「凛には呼ばれるまで来なくていいと言われている。居候の身なのだから家事くらい手伝って当然だと私は思うが」

「じゃ、じゃあそこまで言うなら昼間の家事はアーチャーに任せようかな。その間に私は受験勉強を「駄目だ」」


ぐいぐい攻めてくるものだから、押してダメなら引いてみろ!であっさり引き下がってみたらさっきの私のように食い気味に却下された。
そして思わず―


「なんでさ!」


と、士郎の口癖が移ってしまった。
するとアーチャーはため息のあと頭が痛いというようなそぶりを見せて、私の目元をビシィッと指した。


「君はまず、そのコンシーラーで必死に隠しているのがモロバレな隈をなくしてから勉強に取り掛かれ」

「なんでバレた!」

「君の考えていることくらいすぐわかる」

「・・・ん?」


それってどういう意味?私ってそんな単純思考してるっけ・・・でも士郎も凛ちゃんもコンシーラーで隠してること追求して来なかったもんなぁ…わざと黙っててくれたのかな、でもあの心配性な士郎がコンシーラーまで使って隠してること知ったらただ怒るどころか、強制的に寝かさせそうだし…とポクポクと考えているうちにアーチャーが咳払いで誤魔化した。


「と、とにかくだ一度睡眠と取った方が勉学も捗るだろう」

「・・・わかった」

「よし、ならb「一つ条件があります」」

「−なんだね」

「眠ったら起きれなくなっちゃうから、夕方になったら起こして」

「なるほど、君はそれほど睡眠をとっていなかったわけか」


しまったぁああ!墓穴掘った!!内心冷や汗ダーダーの私に追い打ちをかけてくるようにぎろりと睨んでくるアーチャーは、私が恐る恐る見上げると困った顔で今回は見逃してやろうと許してくれた。ただし、すぐに厳しい顔つきになって次はないと思えと脅された。
私は極寒の地に投げ出されたかのようにガタガタ震えながら頷いた




「なんでついてくるの」


じゃあ、寝るね。と言って居間を退出したはずの私の後ろには腕を組んだ大男がストーキングしている。最初っから気づいてはいたものの、私の部屋がある方面に用事があるとか、少なくとも部屋の前までついてくるとは思ってなかったのだ。


「君がしっかり寝入ったか確認するためだが」

「信用ない!」

「君はこっそり隠れて勉強するタイプだからな。しっかり監視しておかなければならない」

「・・・なんでわかるのさ」


いつもそうだ、アーチャーは他人のはずなのに時々私のことを知っているような、全て見通しているかのような言動をとる。それになんだか最近は、アーチャーと士郎がダブることが多くなっている。士郎はアーチャーみたいなひねくれた言い方はしないし、アーチャーは士郎みたいに正義の味方になる!って熱い男じゃない。どちらかと言えば大局を見据える、冷静なタイプだ。


「勘だよ。ほらさっさと布団に入らないか」


アーチャーは納得いかなそうな顔をしているであろう私を部屋に入れて、布団に入ったのを確認するとひとつ頷いて横たわる私の隣に座った。
本当にこの男は私が寝付くの確認するらしい。こっそり目を盗んで勉強することは素直に諦めて、さっさと寝付いてしまうのが得策だ。


「・・・おやすみ、アーチャー」

「ああ、お休み名前」


ふっと笑ったアーチャーがひどくカッコよくて頬が急激に熱くなったから、毛布を引き上げて顔を隠してしまう。毛布の中は暖かくて、すぐに眠気が襲ってくる。自分でも思っていた以上につかれているようだった。


「−良い夢を」


アーチャーの声が聞こえて何か布団越しに触れたような気がしたけれど、半分以上夢の中にいる私にはそれがなんだかわからなかった。



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