あなたの棘になりたい



私の彼氏である財前は、きっと初対面の人からは誤解されやすいタイプだと思う。

何か取っつきにくいヤツ

…みたいな感じで。

かく言う私もそのうちの一人で、第一印象が良かったなんてお世辞でも言えないのだ。だけど何の因果か同じ委員会になって、音楽の趣味が同じだということを知ってからコロリと印象は変わってしまった。

あれ、案外いいヤツやん?

…ってな具合に。

そして気がつけば大好きな人になってしまうんだから第一印象なんてアテにならないものだ。


「何一人でニヤついてんねん。きしょいわ」

そんなことを考えていると不意に隣にいる財前が不思議そうに私を覗き込んでいたから思わずドキリと胸が高鳴っていく。

例えそこに棘があったとしても。


「別に何でもないし。それと、きしょくないわ」
「ふーん。ま、ええけど」


勘の鋭い財前は私の返事に納得が言ってないと言わんばかりの口振りで語尾を少しだけ強めたけれど、それ以上は追及してくることもないまま並んで歩いてくれる。
 

「あ、そう言えばこないだ名前が気になる言うとったバンド新しいアルバム出すらしいで」
「え!マジで?」
「昨日検索したら出て来てん。楽しみやな」


小さく笑っている財前は私のリアクションを見て更に口元を緩めてくれたのが私には分かって、そんなことが嬉しくてたまらない私はきっと想像以上に財前のことが好きなのだ。


「わざわざ検索してくれてありがと」
「は?別に名前のためちゃうし。自惚れんなや」
「自惚れちゃうもん。ちゃんと財前に好かれとるっていうのは理解してるから」
「………ほんまアホやな」


面倒くさ
という心の声が今にも聞こえてきそうな位に財前は顔をしかめたけれど、今まで横に垂れていた私の手が財前に奪われていく。

相変わらず表情は面倒くさがっているけれど、私の手を包むその力は思わず笑っちゃう位に優しいから私もまた自分ができる最大の優しさで包み替えすのだ。


ねえ財前。ちゃんと気付いてるよ。
歩く速度も私に合わせてくれてることも、車道側を歩いてくれてることも、私の好きなバンドのこと毎日調べてくれてることも、毒舌がただの照れ隠しだということも。

私は気付いてるからね。 


「ねえ、財前?」
「何やねん」
「光って呼んでもええ?」
「…遅すぎるやろ。ほんまアホやな」


心底呆れたという表情をした光に私はまた心を奪われていく。だって手の力が少し強まったから。




あなたの棘になりたい


私の彼氏である光は、きっと初対面の人からは誤解されやすいタイプだと思う。

だから、いつかそんな彼の棘を包んで彼の優しさが皆に伝わればいいのにと思うから私は光の棘にでも何にでもなってやろうと密かにそんなことを考えている。