いとしさと万有引力 ことのはじまりがなんだったのか、今ではもう覚えていない。多分すごいくだらない理由で喧嘩したんだと思う。けど、お互いに変な意地張ってしまい、事態は悪化するばかりだ。 そして言ってしまったのだ。 「夜久なんて大っ嫌い!」 その瞬間、雷に撃たれたかのような顔をして夜久は固まってしまった。 このとき、意地っ張りな私の中に「謝る」という選択肢などなくそのまま逃亡をはかった。 そしてそのまま、一週間が経った。 「なあ、いい加減謝ったら? 」 「なんでここ(二年生の教室)にいるんですかクロ先輩」 「最初どっちかしんねーけどさ、トドメは完全にお前だからな」 クロ先輩が正論を主張してくる。 「ここ一週間の部活中の夜久の沈みっぷりと言ったら」 「うっ」 「もうすぐ大会あんだよなー」 何も言い返せず俯き黙っていると、先輩は溜息をついた。 「ま、今日の放課後空いてんだろ。体育館来てみろよ」 シューズが床に擦れる音と、ボールが飛び交う音が混ざり合う体育館。私が覗きに来る頃にはもうアップを終わらせていた。 夜久を探してみる。大きい体格のバレー部員の中で一人小さい人は、ああ、いた。 見れば元気にリエーフくんをど突いてる姿が見えた。横に約2mが立っていると、なんだか冗談みたいな差があった。 けど、なんだ、元気じゃん。私が心配するまでもなかった。じゃあ、帰ろう。 「なーに帰ろうとしてんだよ」 振り向けば黒猫、いや、クロ先輩が立っていた。 「元気そうでしたけど」 「そんなことねえって」 「夜久に言っといてください。私なんか可愛くない彼女より、可愛い後輩の面倒みてろって」 「なに?拗ねてんの。かーわーいーーい」 「クロ先輩うざいです」 まーまー、と間延びした声と共に引き寄せられる。突然のことで態勢が崩れ、クロ先輩に抱き留められた。何をするのかと反論しようにも大きな掌で口を塞がれた。 「まあ、黙って先輩に任せろって」 私にだけ聞こえる声で、そっと囁いた。 激しい音がした。体育館を走る音。私の方に近づいてくる。音の根源は夜久だった。その形相は鬼のようだった。 「何してる」 「ん?別に」 クロ先輩は至極楽しそうに答える。 「いや〜改めて名前って可愛いなって思ってさ」 「悪いな、それ、俺のなんだよ」 その小さい体とは思えないほどに力強く引き離し、夜久の方に寄せられた。そのまま体育館の外に連れて行かれた。後ろを小さく振り返ると「頑張れよ」と口パクしたクロ先輩が手を振っていた。こればかりは感謝をしなければならない。後は私次第である。 「苗字が嫌いでも、俺はずっと好きだし、別れる気はさらさらない」 振り向いて早口でそう言ってきた。 小さくごめんと呟いた。精一杯だった。それに夜久はうんとだけ返事をして私の唇にキスを落とした。優しく頬を撫でる手が愛おしい。喧嘩以来してなかったから、なんだかいつも以上に心臓がうるさい。 「私だって離れる気ないよ」 言ってから恥ずかしくなって、その場から逃亡をはかる。勢いよく走ったのに、やっぱり運動部は早かった。私が捕まるまで、あと、 |