絡まる糸を解かないでね



「名前ちゃん、めっけ」


ちらと目線をあげる。いましがた言葉を発した男は呑気に飴を頬張っていて嬉しそうな顔をしている。彼、市丸隊長は鋼色の髪をふわふわ揺らし壁に寄りかかって私をにこにこ見下ろしている。
私はしゃがみこみ、かき集めた落ち葉に火をつけて暖をとっている。今頃吉良副隊長は胃を押さえて市丸隊長を探してるんだろうなあとぼんやり思う。


「ここがよくわかりましたね」


私がそう言えば、愛の力や、とよくわからないことを言った。そんな市丸隊長はガリガリと飴を砕き、新しい飴をまた口にいれた。うおい、虫歯になるぞ。市丸隊長はゆっくり私のとなりにしゃがみこんだ。


「寒ない?」

「焚き火してるのでそれほどでも」


相変わらずにこにこしている市丸隊長のおでこを意味もなくべちんと叩いた。いてっと軽く声をあげて額を押さえる様はなんだか幼児のようでとてもかわいく見えた。そんな市丸隊長は私を咎めず、なんやーと楽しそうに笑い声をあげている。
私はそこら辺にあった木の棒を手に取り落ち葉をガサガサと音をたてて中を漁る。中から十分あたたまったであろう焼き芋が二つあった。軍手をはめて一つの焼き芋を半分に割る。


「どうぞ」

「えーボク干し柿の方がええなァ」

「じゃああげません」

「嘘やって、おおきに。貰うから頂戴な」


そうして二人でもぐもぐとあつい焼き芋を食べる。甘い味が口いっぱい広がって幸せだ。
そういえば市丸隊長は干し芋が嫌いだと言っていたけど、焼き芋は大丈夫なのかな。まあ、食べてるしいいか。二本目も半分こして食べる。
パチパチと音をたてて燃える落ち葉は、細い一筋の煙をあげて夕暮れに熔けた。




「市丸隊長、そろそろお仕事に戻らないと吉良副隊長が」

「ほな、一緒に戻ろ」

「いや私今日非番ですし」

「ならボクもここにおる」

「…私が、十二番隊に異動することでも聞きましたか」


そう言うと笑顔が消え、市丸隊長は少しうつむき、さっきイヅルに聞いた、と小さな声ではっきりと答えた。そんな市丸隊長を見た私はなんか面白くなって、隊長の背中を少し強めにこづいた。
隊の会議に参加しないからこうなるんですよ、と言ったら、隊長の真一文字に結ばれた口から、ごめんな、と聞こえた。


「サボるツケが今まわってきたんですよ」

「……」

「…まあ、今生の別れじゃあるまいし」

「…三番隊と十二番隊の隊舍遠いやん」

「そうですけど、会えない距離ではないからそんなにショボくれなくても」

「隊長等にナニされるかわからんやろ」

「ナニもされないですよ……」

「…毎日キミに会えんようになるの嫌やねん」

「駄々っ子かい」


そう言うと顔をこちらに向けて何か言いたげな雰囲気で私に顔を近づけた。市丸隊長はおでことおでこがくっつきそうなくらいの距離で顔を止め口を開いた。


「ちょ、隊長、近っ」

「離れてなんかやらん」

「はっ?」

「好き、好きやで」


肩に埋まる銀色と背中にまわされた大きな腕に驚きながら、私もそれにこたえるように隊長の背中に手をまわす。 ポンポンと頭と背中をやさしくたたく。
まったく、この大きな赤子はどうしたらよいのだろうか。呆れながらも笑みがこぼれて嬉しいのは、私も隊長のことが好きだから、惚れた弱味とでも言うのだろうか。
私は、近付いてくる吉良副隊長の霊圧には気付かないふりをして、市丸隊長のつむじに口付けをした。