【SPRIG SPRINGER】 | ナノ


2012-03-14


【SPRIG SPRINGER】



「なんか違う…」
「なにがだ??」

 隣で、首を傾げる吉野の視線を羽鳥が追えば、雑誌のインタビュー記事。

「雛飾りだな」
「うん」

 5人の著名人が、1ページ毎に、自分の雛人形を見せるという季節物の企画。
 吉野が指差したのは、有名女優の家にある七段の雛飾り。
 骨董品らしく、吉野家にある物とは随分色合いが違う。

「で、何が違うんだ?」
「わかんない」
「千夏ちゃんの物より随分古いからじゃないのか?」
「それは、解ってるよ。
 千夏のは、生まれた時に買ったやつだし、3段飾りだし…。
 なんだろ?」

 吉野は「きーにーなーるー」と、ソファーにゴロリと寝ころんで、天井を仰ぐ。

「違和感を感じる。でも、わからん…。なんだ??」

 そう言うと、クッションを抱えて、考え込んでしまった。

 吉野は、感覚的に生きている。
 そして、一度気になりだすと、他の事に集中できない事もある。
 だいたいは「まっ、いっか」で終わるのだが、そうならない場合もたまにあり、最悪、スランプに陥ったり、作品に対してマイナスの影響を与えたり…。
 とりあえず、イイ事はない。
 そうなると、担当編集の羽鳥も一苦労だ。
 だから、どうにかして気を逸らす。

「三色ゼリー買ってきた」
「へ?」

 こう言った時は食べ物で吊る。
 そして、吉野はまんまと引っ掛かる。

「やった!三色ゼリー!!」

 ローテーブルにゼリーと、それに付いていたスプーンを準備すると、満面の笑みを浮かべた吉野が飛び付く。

「なぁ、トリ」
「なんだ?」
「三色ゼリーってなんで、一枚ずつ剥がれるんだろうな?」

 そういいながら、吉野は一層目の赤いゼリーを、ベロリと剥がして頬張る。

「さぁな」

 急須から湯呑に茶を注ぎ入れる羽鳥は、そんな吉野を呆れ顔で見る。

 昔から食べ方は全く変わっていない。
 が、羽鳥も今更、怒る気になれない。

 無残に剥がされる二層目の白いゼリー。

「ていうか、売ってるんだな、こんなの」
「スーパーでたまたま見掛けた」
「ふ〜ん…………。
 ………あっ!」
「汚い!!」
「ゴメン!」

 突然、大きな声を出した吉野の口から、ゼリーの破片が飛んできて、羽鳥は眉間に皺を寄せる。

「わかった!」
「何がだ?」
「違和感!」
「さっきのか?」

 そう聞きながら、羽鳥は、汚れ物を包んだティッシュをゴミ箱に捨てる。

「お雛様とお内裏様の位置が逆だったんだ!」

 「ほら!」と雑誌を見ると、確かに吉野が気になった女優の物と、他のページの人の物では、一段目の女雛男雛の位置が違う。

「なんでだろう」
「ん?それなら」

 と、羽鳥は解説を始めた。

「昔は向かって右側の方が地位が高かったからだ。
 それが、明治以降、西洋化が進んで、向かって左側に男性が立つようになったそうだ。
 だから、京都などの古い伝統が残っている所は、今でも向かって右側に内裏雛を飾る」
「へぇ〜」

 スプーンを咥えたまま、茫然としている吉野。

「なんでそんなの知ってんだ??トリすげ〜」

「昔、担当していた作家が京都出身で、そうやって描いた雛人形を見た読者からハガキが来たんだ。
 『逆ですよ』って」
「いろいろあるんだな」
「そうだな」
「よし、次のネームは雛祭りで練るか!」
「もう遅い。書くなら来年だ」
「あっ、そっか!」
「それに、舞台が中世ヨーロッパの作品に、どうやったら雛人形が出てくる」
「確かに…」
「バカな事言ってないで、さっさとネームの続きするぞ」
「はーい」

 吉野がカップをゴミ箱にシュートすると、入れ替わるように、羽鳥はローテーブルに真っ白な紙をドカリと置く。

「物知りの羽鳥君…」
「物知りではないが、なんだ?」
「俺の作品の続きがどうなるか知らないか?」
「真面目に聞いているなら教えてやろう」
「おう!!」
「今解っている事は、お前が続きを書かない限り、俺は飯を作らないという事だ」
「やっぱり」
「あと、お前の仕事が終わらないと、いつまで経ってもお前を抱けないって事だ」
「へ?」

 羽鳥の方を見るとお決まりのパターン。

 「んっ…ん、ん…ふっ…」

 気を抜けばいつも、唇を奪われる。

 「…っぷはっ、な、なにすんだよ!」
 「やっぱり、甘いな」

 ペロリと味見するように、自分の唇を舐める羽鳥の顔をみて、ドキリと胸が跳ねる吉野。

  色気なく、キスの感覚の残る口元をガシガシと、シャツの胸辺りで拭いていると、肉付きの悪い腹に暖かな手の感触。

「先に抱かれたいなら、抱いてやるが」
「ち、違う!まだ、抱くな!」
「まだ、と言う事は、ネームが上がったら抱いていいのか?」
「へ?」
「なら、さっさと描け!」
「か、描くか!バカっ!」
「じゃぁ、飯抜きだ!」

 勿論、この後、吉野がネームを描き上げて、羽鳥の飯を食い、そして羽鳥に食われたのは想像に易い…。


+++


 全国的には、お雛様を右に飾るって、大人になるまで知らなかった…。

 って事で、京都では、お雛様を向かって左側に飾ります。
 だから、未だに、右にお雛様を飾ってる写真とか見ると「変…」って思います。

 あと、三色ゼリーって全国共通なのかな?
 給食に出てきましたかね?
 ひし型でした??
 ウチの学校は、ひし型三色ゼリーで、作中の吉野みたいに一層ずつ剥がして食べてました。(笑)

 タイトルは、堂島孝平さんの曲タイトルより…。

 2012-03-03→2012-03-13











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