甘えベタと甘えさせベタC | ナノ


2012-03-27


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「これ、着替えろ」
「あぁ」

 羽鳥が見慣れたソファーに腰を落とすと、吉野は着替え一式を投げて寄こした。

 羽鳥はやる気の無い手を重たく上げて、弛んでいたネクタイを外し、ボトムに手を掛けた。
 下着も取り換え、ルームウェアーに足を通す。
 シャツのボタンを外し、インナーを脱ぐ。
 ひんやりとしたTシャツは肌に心地いい。

 ぼんやりと下を見ると、脱いだボトムが目に入った。
 『あぁ、皺になる』と拾おうとすると、それより先に吉野の手が、それを拾い上げ、皺を伸ばしてソファーの背もたれに掛けた。
 手つきがまんま自分の仕草と気付いた羽鳥は、素直に『嬉しい』と感じてしまった。

「あとは?」
「えっ?」
「なんかいる?」
「…水…あと、歯磨き、したい…」

 ぶっきらぼうは変わりなく、心配するというよりイラついてる吉野。

 『約束破って、朝帰りだからな…当り前か…』と、心の中で自傷してしまう羽鳥を尻目に「水、用意してやるから、洗面所行って来い」と、腕を引っ張られ、ソファーから剥される。

 今日は全部、吉野ペース。

 いや、いつも吉野のペースなのだが、なぜか焦っているような…。
 そんな『なんとなく』なクエッションに答えが出せないまま、歯を磨き、リビングに戻ると、言った通りテーブルに水が準備されていた。
 コクコクと喉に通る冷たさがたまらず、一気に飲み干すと、吉野に腕を引っ張られる。

 着いた所は寝室。
 腕をぐいぐい引っ張られた羽鳥は、そのままベッドに押し倒された。

「吉野?」

 吉野も寝転ぶと、もぞもぞと身を寄せ、羽鳥の頭を抱え込むとこう言った。

「忘れてやる。
 …忘れてやるから、甘えろ」



 素直じゃない恋人。
 でも、俺の帰る場所。



 完璧な仮面を付ける恋人。
 その素顔は俺だけのモノ。


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