勝ち負け | ナノ


2012-08-15


床でゴロゴロして思い付いた。


+++


 ラグの端っこから寝がえりを打って、頬をペタリと床材にくっ付ける。
 酔っ払った身体にフローリングの冷たさが気持ちいい。
 車に轢かれたカエルの様に、フローリングとヨロシクしてると、頭上から不機嫌な声が降ってきた。

「龍一郎様、そんな所で寝ないで下さい」
「やだ」
「“ヤダ”ではありません。とっとと帰って下さい」

 いつものやりとりだ。

 会合でしこたま呑んだ。
 明日が休みってのもあるけど、ベロベロになったら朝まで一緒に居られると思ったんだよ。
 でも、ヤツはいつも通りだ。
 恋人がこんな無防備に醜態をさらしてるのに、襲おうとも思わないのか??

「そんな所で寝てたら、襲いますよ」
「っ!」

 一瞬、心の中を読まれた気がして、ビクリと身体を強張らせてしまった。

「冗談ですよ」

 クスクスと笑う朝比奈の声が聞こえる。

 朝比奈のクセに笑いやがって!

 そう思ってもさっきの「そんな所で、寝てたら襲いますよ」に期待している自分も居る。

「龍一郎様?」

 物言わない俺を不審に思ったのか、朝比奈の気配がグッと近くなる。

「龍一郎様、そんな所で寝ていたら風邪をひきますよ」

 ゴロリとラグの方に寝返ると、天井のシーリングの光で一瞬、目が眩んだ。
 しかし、その眩しさも束の間、俺の隣に跪いた朝比奈が、その光を塞ぐようにゆっくりと俺を覗き込む。

「風邪をひいて困るのは誰だ?」
「貴方でしょ?」
「風邪をひいて困るのは誰だ?」

 呆れ顔の朝比奈が答える。

「私です…」

 “抱き起こせ”と両手を広げれば、何の躊躇も無く朝比奈は俺の身体を抱き寄せる。
 俺も朝比奈の首に腕を回す。

「まだ、帰って欲しいか?」
「…いえ、…お帰りは明日でお願いします」

 勝者は常に俺だ。
 敗者は常にお前だ。

「ただし、明日、ベッドから起き上がれるか…は、保証できませんが…」
「へ?」











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