臆病者の胸の内A | ナノ


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 だが、俺達の関係はちゃんと変わっていた。


「私は貴方の意思に、従う事が…、できません…」


 一呼吸おいて、息を大きく吸い込んだ朝比奈は、はっきりとそう言った。


「朝比奈?」
「私は、貴方を失いたくありません…それが、怖い…。」
「…」
「貴方は気まぐれで、ワガママで…
 だから、いつかこの腕の中から消えてしまいそうで…
 いつも、朝起きて貴方が…貴方が私を置いていかないか心配でたまらない…」
「お前…」
「申し訳ありません…。
 龍一郎様、どうか、許して下さい…」
「…許すって…」
「…私は貴方が居ないと生きて行けません
 …だから、だから…」


“今、俺はこいつを傷付けている”


 朝比奈の声を聞きながら俺はそう思った…。
 朝比奈の強い包容の中、俺は胸の前で束ねていた手を、朝比奈の背中に回す。
 すると、朝比奈が少し震えている事に気付いた。

 本当に大切なのに…、大切で愛しくて仕方ないのに、どうしようもない俺はこいつを傷付けてしまう。


「朝比奈…」
「だから、私を置いていかないで…下さい…」


 幼い頃、大人のワガママで身も心も傷付いた朝比奈。
 俺はそれを見て、守りたいと思った。

 大人になった俺は、朝比奈を守れているのだろうか。
 お前を一番傷付けているのは俺じゃないのか?


「朝比奈…」
「…」
「俺はお前を離したりしない。絶対に…」
「………は、い…」
「お前は、俺のモノだ」
「………はい…」
「だから、俺から離れたら許さない」
「……はい…」
「お前に命令していいのは、俺だけだ」
「…はい…」
「お前にワガママ言って良いのも、俺だけだ」
「…はい」
「お前のベッドで寝ていいのも俺だけだし、お前と風呂に入って良いのも、俺だけだ」
「はい」
「お前の膝枕も俺のモノだ。あと…」
「あと、私がキスしたいと思うのは龍一郎様だけです」
「…っ」


 ふと、耳元で「キス、していいですか?龍一郎様?」と囁かれて、ボッと顔が熱くなるのを感じると同時に、頬に手を添えられて、開けた視界に入ってきたのは、少し潤んだ瞳の朝比奈。
 睫の先に小さな雫を湛えて、目の輪郭が濡れている。
 泣かせてしまった…と、胸が痛い。


「私を傷付けて良いのも貴方だけです」
 そして、私の傷を癒せるのも貴方だけです」


 俺は傷付ける以上に、お前を愛したい。
 だから、俺の側にいてほしい…。


 キスに飲み込まれて伝えられなかった感情。

 矛盾だらけだけど、お前は許してくれるか?


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閲覧ありがとうございました。
龍一郎様は頭の良い人間なのですが、時々、ミスをします。
それは人間なので仕方ないのですが、きっと、それは朝比奈限定だと思います。
そして、朝比奈は、冷静な人間と見られていそうですが、とても脆く傷付きやすい人なのだと思います。
ハリネズミのジレンマ的な傷の付け合い方はしないと思いますし、傷口をワザと広げる様なサディスティックな事もないでしょう。
ただ、静かに流れる時の中で、龍一郎はミスをして、知らない内に朝比奈を傷付けてしまう…そんな二人を書いてみました。


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