結果の必然性F | ナノ


2012-06-25


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 執務室に戻った龍一郎様は“午前中提出”と、書かれた付箋の貼られた書面に目を通されている。
 もうすぐ正午。
 できれば、もう少し早く書類を回したかったが、致し方ない。

「つか、お前、アイツの事、気付いてたのか??」
「アイツと申されますと?」
「ミス連発役立たず女」

 少々乱暴なネーミングに笑ってしまう。

「酷い言われようですね…」
「事実を述べたまでだ」

 最後の書類にサインをされているのを確認して、少しだけ私語にお付き合いする事にした。

「まぁ、薄々は…。
 室長に専務の専属になる様に頼み込んでいたのも知っていましたし…」
「なっ!?つか、お前、ちょっとは焦れよ!」
「なぜですか?」

 龍一郎様は椅子から立ち上がり、サインした書面を私に突き付ける。

「なんでって!お前!」

 その書類を確認して社内封に収める。

 龍一郎様の顔を見れば明らかに拗ねているご様子…。
 察するに“嫉妬くらいしろ!”“ちょっとは焦れ!”と言った所だろうか?

「ほら、時間ですよ、早くして下さい」
「おい、朝比奈」
「はい?」

 龍一郎様は、首元のネクタイを抜き取り、私の前に突き出す。

「ネクタイ」

 この方は、いつも私を困らせる…。

 と、思いながらも、身体は勝手に動いて、ネクタイを受け取る。

「まったく…。
 先週までは御自分でされてたんでしょ?」
「あの女にやらせてたって言ったら?」

 その言葉に、一瞬、眉間に皺を寄せてしまった。

 冗談だと分かっていても、やはり動揺してしまう。
 自分はこんなに嫉妬深い人間だったのだろうか?
 時が経てば立つほど、側に居ればいるほど、どんどんその存在が大きくなっていく。
 そして、唯一無二の存在になりたいと欲してしまう。
 仕事中なのに…、まったく、私はなっていない…。

「嘘だよ、お前にしかさせない」

 その言葉に安心するが、秘書にあるまじき行為だったと反省する。
 こんな時に、何か気の効いた事が言えればイイのだが…。
 まだまだ勉強不足だな…。

 ノットを整え、スーツの中に先端を納めて、ポンポンと胸を叩く。

「貴方にとって、秘書は駒でしょ?」
「えっ?」
「違いますか?」
「いや、…そうだけど…」

 自分より身長の低い龍一郎様は少し顔を上げて、私の目を覗き込む。
 突然の私の発言は、少々遠まわしだっただろうか?

「彼女は貴方の求める人材では無かった事はわかっていましたし、まして貴方の仕事のペースについて行く事は最初から期待しておりませんでしたから、その内、音を上げるだろうと思っていました。
 今回の場合、音を上げたのは専務の方だった…かもしれませんが」
「あーさーひーなー」
「それに、貴方の世話を完璧に妬けるのは、私が知る限り私しか居ないと思っていますから」
「…っ!」

 見開いた目に映る自分は、きっと龍一郎様にしか見せない顔で笑っている。

「違いますか?」
「違わないかもな…」
「それに、結果は偶然ではなく、全て“必然”と聞きます。
 貴方に仕える事も、また必然なのであれば、私はそれに従うまで…」

 突然、ニヤリと笑う龍一郎様。

「“必然”…ねぇ。
 必然の結果…」
「どうかされましたか?」

 はて?と、首を傾げる私はネクタイを引っ張られ、危うくキスしてしまいそうになる。
 どうにか掌を龍一郎様の額に押し当てて阻止する。
 ホント、油断も隙もあったもんじゃない。

「キスくらいイイだろ?」
「いけません。
 ほら、時間がありません。
 さっさとしなさい」

 尻を叩き、方向転換させる。

 齢30の男の尻を叩くなんて…。
 でも、それを許されるのは私だけ。

 龍一郎様は、凝りを解す様に首を大きく回すと、いつもの井坂龍一郎の仮面を華麗に付け、ドアノブに手を掛けた。

「行くぞ、朝比奈!」

 私は、そんな龍一郎の背中に黙礼し、小さく笑みを零した。

「はい、専務…」


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