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「龍一郎様?」
「んぁ?」
今、俺の隣には、当然の様に朝比奈が居る。
「どうしたんですか?本棚なんてジッと見て…」
「ん?この本の下巻、借りっぱなしだったな…って」
俺の指の先には、日に焼けた背表紙の文庫本が二冊。
仲良く並ぶ、上巻と中巻。
「ああ、パンダニアの秘宝ですか、懐かしいですね」
「まだ、持ってるな、俺が」
「そうですね…」
朝比奈は俺の後ろに立つと、慣れた感じで俺を抱きすくめる。
勿論、指先も丁寧に回収される。
「わざわざ、借りに、私の部屋まで来て下さいましたね」
「それは…その…なんだ…その…」
会いたかったから…、なんてホントの事は言えるはずもなく…。
「嬉しかったです」
「…えっ?」
「なかなか会えなくて、顔を見る事も少なくなって、貴方に避けれれていると思っていたので…」
「避けてなんかねぇーよ。
なんつぅか、社会人と学生ってちょっと違うっつーか…、1年の溝を感じてたんだよ」
「はい。
ですから、理由はなんであれ貴方に会える事が嬉しかった。
と言っても、下巻を借りに来た時は…」
「お前は夢の中だったからな」
「はい、残念ながら…」
バカだな…コイツ。
いや、俺もか…。
「会いたければ、来ればよかっただろ?
離れに住んでんだから」
「出来るわけないでしょ?」
「なんでだ?」
「意味もなく貴方に会いに行くなんて。
…意味が無いと、私の気持ちがバレてしまいそうで…。
世話係として貴方を見る事で、どうにかして自分の気持ちを捩じ伏せていましたから…」
「捩じ伏せるって…」
「貴方の側に居る為の理由が無いと…」
一生片想いで終わるはずの恋をしていた朝比奈。
俺も、叶わぬ恋をしていた。
蓋を開ければ完璧な両想いだったが…。
「なぁ、朝比奈」
「はい」
「本、返して欲しいか?」
「ええ、いつか返して下さい」
「嫌だ。って言ったら?」
「返して下さるまで、側に居ます」
「返したら、どっかに行くのか?」
「そうですね、そうしましょうか」
「…っ」
嘘だと解っていても、いざ言われると上手く切り返せない。
「嘘ですよ、ずっと側においてください、龍一郎様」
耳元で俺の名を呼ぶ朝比奈の声が少し嬉しそうで「ふん、勝手にしろ」なんて言ってみたが、本心を言えば、勝手にさせる気はない。
“俺から離れる事は、俺が許さない。”
それが今、お前が俺の隣に居る理由だ。
365日の壁も溝も、ぶち破る様な…、埋め尽くしてしまうくらいの衝動があれば、きっとそれは、大した事などではない…。
俺はそう思う。
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※以前、手ブロで社会人・朝比奈と学生・龍一郎様の話をしてらっしゃった時に、イイ!と思い、勝手に書き始めた物です。
くろかみさんはスーツを描いていらっしゃいましたが、シーン上、ジャケットは脱がせちゃいました…てへへ。
このネタ勝手に書いて&サプライズの為、事後報告でゴメンナサイ…m(__)m
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