Natural American SpiritF | ナノ


2012-04-27


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「だるい」

 起きたて一発目の龍一郎のセリフだ。

 キングサイズのベッドなのに、使っているのはシングル幅より狭い。

 二人はトランクス一枚でシーツに包まり、互いの顔が見れない程、身を寄せていた。

「だるいのであれば、もう少しベッドを有効利用されてはいかがですか?」

 そう言った朝比奈だったが、離すつもりなんて毛頭ない。
 それは、龍一郎も同じ。

「お前、昨日、ラウンジに居たんだな」
「はい」
「お前は俺が居る事に気付いてたのか?」
「はい」

 ギュッと抱かれた体温が暖かくて…。
 目を閉じれば聞こえる優しい声。

「ガラスに映ってましたよ」
「そうか」

 あの時、龍一郎は自分の背後を振り返らなかった。
 そして、バーテンダーの後ろに薄ら映るガラス越しの店内からも目を逸らしていた。
 それは、きっと無意識にでも、彼女の隣に居る朝比奈を見つけてしまう自分が疎ましかったから…。
 経営者として、上司として、社会人として、最愛の人を金を動かすコマにしたから…。

「龍一郎様?」
「いや、何でもない」

 手放したくないものがあるなら、それは朝比奈薫なのだと、龍一郎は殊更強く朝比奈を抱く。

 ハッキリ言って、昨晩の後半の記憶が曖昧だ。
 小沢と呑んでクラクラしてエレベーターに乗った所まではハッキリした記憶がある。
 部屋に戻って、水と何かザラザラとした粉っぽい物を口に入れられた気がする…。

 その後は…。

 龍一郎の身体には、ほの暗く現実なのか夢なのか分からない四角い空間に居た様な、なんとも言えないドロドロとして感触が残っている。
 じっとりと湿っているのに温度はヒンヤリしていて、それは底無しの沼のような感覚で、龍一郎は深層心理の最奥に恐怖を感じながら、遠くで聞こえる誰かの話す声を聞いていた。
 ただ、時折触れる暖かさと自分を呼ぶ声だけが、現実という空間に自分を繋ぎとめていてくれたのだと思う。
 それは、今もこうして自分を離さないでいる朝比奈だ。

 あれは、夢だったのだろうか?
 朝比奈は酷く恐ろしい声色で誰かと話していた。
 今まで自分が聞いた事無い位、冷たい声で…。

「夢を見たのかも…な…」
「はい、きっと悪い夢です」

 そう、あれは夢だ。

 龍一郎は、それ以上深く考える事を放棄した。
 深く考えた所で、その先に光など見えぬ気がしたからだ。

「お酒を召し上がる時は、側に置いて下さい」
「お前が居ないから悪い」
「…そう、ですね…、申し訳ありません」

 今回は自分にも非がある。
 全てを朝比奈のせいにするには、少々、己に対する責任の比が高い。
 しかし、それを素直に朝比奈の前で認めないのが、龍一郎なのだ。

「お酒を召し上がった龍一郎様は、いつもより柔らかくなって男女問わず変な虫が寄ってきます」
「変な虫って…。妬いてんのか?」
「はい、いけませんか?」

 平然とそう答える朝比奈の腕から抜け出した龍一郎は、サイドテーブルに置いてあった水に手を伸ばす。
 気持ちよく飲むには温くなりすぎた水だったが、妙に乾く口とヒリヒリと痛む喉を潤すには充分だ。

「なぁ、やっぱり安斎ってお前の事、狙ってるよな」
「貴方以外の人間に興味なんてないですよ」
「お前が、興味なくても安斎にあんだよ!」

 付き合い初めて、とうに10年以上経過するが、井坂龍一郎と言う人物は、人が考えるより、相当ヤキモチ妬きで、嫉妬深い。
 同様の事は、朝比奈にも言えるだろう。
 勿論、それはお互いだけが知る事のできる顔。
 しかし、昨日の朝比奈はそれ以上の何かを内に秘めている気がしなくもない…。

 などと考えるが、記憶も曖昧な状態で何を考えても堂々巡りな龍一郎は、回らない頭に潤滑液を注ぐように、ボトルの水を煽っていく。

 ベッドに頬杖を突いた朝比奈は、リズミカルに動く龍一郎の喉を注意深く見ながら「では、監禁でもなさいますか?」などと冗談を言う。

「…げほっ……っ…バカか!」

 仏頂面が妙な事を言うのを、噎せ返りながら否定した龍一郎は、ヒョイと水を取り上げられ、再びその長い腕によって、元の位置に戻る事になる。

 朝比奈は、戻ってきた龍一郎を抱きしめるが、頬擦りする髪の毛から、悪魔が吸っていた煙の匂いがして『早く風呂に入れなければ…』などと思っていると、腕の中の龍一郎が問うてきた。

「じゃ、親父は?」
「はい?」

 事ある毎に、父親を目の敵にする恋人…。

「親父には興味ないのかよ」
「あの方に逆らうと、貴方の側にいられなくなるでしょ?
 なんせ、社長なんですから」

 自分の親にもヤキモチを妬く癖に、あからさまな甘えアピールはあまり見せない。

「じゃ、俺が社長だったらイイのかよ」
「でも、ダメですね」
「どうせ、俺を生んだのは親父だ、とか言うんだろ?」
「お産みになったのは奥様ですよ」
「モノの喩えだよ、ばぁか」
「確かに、旦那様と奥さまは私にとって神様みたいなものです。
 神様が居なければ、龍一郎様に会えなかったでしょうし」

 これは喩え。

「神様ねぇ〜」
「しかし、貴方と出会わなければ"人を殺したい程の愛"なんて知らずに生きていたでしょうね…」

 これは、本当の事…。

「ん?今のどういう事だ?」
「モノの喩えですよ、龍一郎様」



 朝比奈薫の感情は、全て井坂龍一郎の為に存在する。

 それは、哀しみも喜びも…。

 そして、殺意も…。


+++


終わりが汚いな…。
オチって何処に落ちてるんだ??


まず、薬物使用の疑いがある場面に遭遇した場合、劇中の様に胃洗浄を行わず、必ず、救急に連絡して下さい。
胃洗浄は、医療機関で行う医療行為です。


さて、用語説明を…。

まずは、音楽。
今回は、ジョンコルトレーン(A.sax or T.sax)とビルエヴァンス(Piano)に登場して頂きました。
ココを読んでいらっしゃるお嬢様方には、耳馴染みのない名前でしょうが、二人とも超有名なJAZZミュージシャンです。
John Coltrane『Say it』→YouTube
Bill Evans『MY FOOLISH HEART』→YouTube

つづいて、タバコ…。
劇中で、オリキャラ小沢が吸っていたのは、Natural American Spiritという、外国煙草です。
俗称はアメスピ。
無添加で、火を点けてもスグに消えるので、少し吸いにくい…。
(普通のタバコは火が長持ちするように添加物が入ってます。)
昔、吸った事あるけど、結構、クセがあったかな?
ウチは、復刻版のラッキーストライクが好きでしたね★
でも、日常的に吸ってたのはマイセンライト。
今は、買いタバコは卒業しました。

最後に、クスリ。
ちなみに、ノルモレストとベンザリンは販売も製造もされてないのでご登場頂きました。
非合法の大麻とか覚醒剤と違って、睡眠薬や精神薬でラリってた人が居たのね、昔。
流行は70〜80年代だったらしい、あの頃は、こういった薬がゴロゴロ。
やった事のある人に言わせれば2大スターだったそうな。
好きな作家がヤク中でアル中な方やったから、書いてみました★
今は、処方書くのも結構厳しいらしいし、弱いから作中の様な効果は期待できないそうな…(いや、期待するなよ…)


連載中に「小沢ってフリッパーズギターから名前取りましたか?」とメッセージくれた方がいらっしゃいました。
フリッパーズは私が小学校に行く前に解散してしまいましたが、今でも二人は私のアイドルです…(じゃぁ、なぜ敵キャラに使った…??)
はい、正解です。
ちなみに、安斎じゅんにも元ネタがおります。
【安斎じゅん】か【みうらはじめ】のどちらかにしようと思って、女性名なので前者にしたんですが、元ネタ分かる方いらっしゃるかしら?ふふふ。

本当は、セカロマキャラ全部にタバコの銘柄を当ててみたんやけど、上書き事件で消えてしまった…。


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