Natural American SpiritE | ナノ


2012-04-25


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「くくっ…く、はっ、はははっは、くく…くくっ…ヤバイ、超ウケる!ははは」

 小沢は床に大の字になり声を立てて笑う。
 何に笑うでもない、己を笑う。

「アンタ、イイ性格してるねぇ〜。
 フィルター押し付けるとかって、いつの時代よ」
「お褒めに預かり光栄です」

 朝比奈が小沢の額に押しつけたのは、火種の付いている先端ではなく、吹口であるフィルター側。
 小沢は無傷の額をグリグリと人差し指で押してまた笑う。

 しばらくその笑いは続いたが、いい加減笑い飽きたのか、目尻に溜まった笑い涙を乱暴に甲で拭った小沢は、足の裏を天井に向けて脚を上げ、勢いよく振り落とした反動で、上半身を起こした。
 そして、テディーベアの様に床に座り、顔だけを朝比奈に向ける。
 そこには、ベッドでヘラヘラと笑う龍一郎と、それに寄り添う朝比奈の姿。
 朝比奈は視線を龍一郎に向けたまま、話を続ける。

「よくこんな不味いものが吸えますね」
「そうか?添加物入ってないし、日本のたばこより美味いけど」

 酒が抜けていないせいか、少し体温の高い龍一郎の手を取ると、力なく握り返された。

「貴方の腐った舌ならどんなジャンキーでも美味しく召し上がるんでしょね」
「でも、俺、素人に薬盛るのが好きなの」
「あまり褒められた趣味ではありませんね」
「それに、ジャンキーの女は大概が病気持ちで、アコソも腐ってるからな。
 ゴムして突っ込む分にはいいけど、舐めんのは勘弁」

 小沢は、ズルズルと下半身を擦り引くように、ベッドの淵までやってくると、その面に頬杖を突く。

「昔より規制きつくなったけど…。
 あっ、クスリの事ね…。
 まぁ、結構簡単に手に入るよ」
「そうですか」
「あんたもやってみる?ラリったの犯すのも乙なもんだぜ」
「そうですか」

 朝比奈は無機質な返答を繰り返す。

「なかなか、可愛いだろ?」
 酒入ってるから、尚更だな」
「可愛い…ですか…」

 そして、腹の中に黒い塊を抱えている気分になる。

「俺も昔ちょっとヤってみたけど、効いてる時の感覚がわかったから、もういいや…、ってね」
「そうですか」
「あんた、酒飲める??」
「それなりに」
「そう、残念。
 ヤクの酩酊よりアルコールの酩酊の方が手に入りやすくて合法だもんね。
 呑めないなら、いくらか分けてあげようと思ったけどやーめた」

 『ああ、今、横にいる男を殺してやりたい……。そうか、これが"殺意"か…』と、朝比奈は自分の腹の中に芽生えた感覚が"殺意"で、その上、その感情が全く温度を持たない事に気付く。
 自分が考えていた殺意という感情は、もっと怒りにトチ狂ったような真っ赤なものだと思っていたからだ。
 そして、それと同時に、殺意以上に『どうしたら、コイツにこの上ない苦しみを与えられるのだろう…』と一瞬でも考えてしまった自分は、こいつと同じレベルか、それ以下か…、などと思った朝比奈は、一回かぶりを振って冷たく小沢を見下す。

「3Pも良いかと思ったけど、邪魔みたいだから帰るわ」
「そうですね」
「あれ?引き止め無いの?」
「ご冗談」

 部屋の出入口に向かう小沢の後に、朝比奈も続く。
 その扉の前で、小沢はクルリと朝比奈の方を向き「あんた、マンガに出てくる王子様みたいだな」と笑った。

「では、貴方は魔女ですかね?」
「はは、俺、女じゃねぇよ」
「喩えとしては、的を射ていると思いますよ」

 朝比奈は、小沢の背後にある扉を開き『さようなら』と黙礼して、小沢を部屋から追い出す。

「なぁ、今、俺のことどうしたい?」
「そうですね、端的に言えば『殺してやりたい』…ですかね」
「はは、おっかないねぇ」

 朝比奈はとびきりの営業スマイルを小沢に向ける。

「今度お会いする時は、ビジネスライクでお願い致します。
 小沢製紙次期社長殿」

 そんな朝比奈に、小沢は「お姫様によろしく」と、胸に片手を当て気障にお辞儀を返す。


+++


 扉が音なく閉まると、朝比奈は白い壁をその拳で殴った。

「クソっ」

 それは、小沢にではなく、龍一郎の側に入れなかった自分に…。


 暫くは、まともに呼吸が出来ない程、身体が動揺していたが、一つ深く息を吸い、ゆっくり吐きだすと、落ち着いたか、龍一郎が待つ寝室に足先を向ける。

 ベッドの上の龍一郎は、小沢が残していった、タバコを一直線にベッドヘッドに並べ、その横に同じようにマッチ棒を並べていた。

 それは、薬物による酩酊を得た者が取る、無意味な単純作業である。
 龍一郎は、その無意味な単純作業に細心の注意を払い、一ミリも隙間を開けないようにタバコを並べて行く。

 そんな龍一郎の隣に座った朝比奈は、その指先にそっと触れる。

「龍一郎様」

 その呼びかけに龍一郎は、振り向き、甘える様に胸に頬を擦り寄せる。

 そんな龍一郎をそっと抱きしめるが、その視線の隅に黄色いタバコのソフトパックが入り、反吐が出そうで、無意識に奥歯に力が入る。
 パッケージに書かれた先住民の横顔が、先程までココに居た悪魔と重なって朝比奈は、その中身が抜かれたパッケージを握りつぶしてゴミ箱へ投げつけた。
 パッケージは朝比奈が思った通りにゴミ箱に入り、姿を消したが、同じく腕の中に居る龍一郎の中身も、まるでどこかに行ってしまったようで、朝比奈は酷く不安になる。

 そっと龍一郎の頭を撫で、額に一つキスをすると、「龍一郎様イイコトしましょ」と耳元で囁いた。



 朝比奈は、バスルームの扉を開き、「さぁ、ココに座って下さい」と、龍一郎の身体を支え、白い独特な形をした陶器の前に座らせた。
 ペタリと床に座った龍一郎だったが、大理石の床の冷たさを感じるわけでもなく、ただただ、朝比奈に身体を預けて、ニコニコと微笑む。

「龍一郎様、お水です」

 朝比奈は、龍一郎の口にペットボトルの口を当てる。
 コクコクとその半分くらいを飲み干すのを確認すると、ペットボトルを離し、次は「舐めて下さい」と、自分の長い指を龍一郎の口内に侵入させた。
 チュパチュパと音を立て機嫌よくしゃぶり付く龍一郎を見ていると、本来の目的を忘れそうになる朝比奈だったが、そんな煩悩を押し殺し「息を吸って下さい」と次のお願いを龍一郎に伝える。
 スーっ息を吸い込んだのを確認すると、朝比奈は、口内の指を喉まで突き入れ、龍一郎の頭を目の前の陶器に押し付ける。

「っ…オェっ…っ」

 食事中には聞きなくない音は、朝比奈が触れた『大』『小』と振り分けられたレバーによって、文字通り、水に流された。


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