2012-04-13
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完全に寝る準備を整えて、龍一郎はバスルームからリビングに戻ってきた。
「なんで、お前、ココにいんの??」
そして、その頭の上に、大きな疑問符を乗せていた。
目の前には、ソファーに腰掛けた朝比奈。
「合鍵で入りました」
当然の様に答える朝比奈の隣にドカリと座る。
「いや、ちがう!そうじゃない。
何しに来たんだよ!
仕事ならしねーからな!」
龍一郎が機嫌悪くそう言うと、朝比奈が胸ポケットから、車内で拾ったペンを取りだした。
「ペンをお忘れでした…」
「そんなもん、明日渡せ、ば、い…い…」
途中までそう言ったのだが、その心の中と相反する言葉を吐く唇に、朝比奈の唇が軽く触れると、自然に言葉の語尾は無くなってしまう。
唇が離れると、その長い腕が龍一郎を抱き締める。
「…今日中に、渡しておきたくて…」
龍一郎は思う。
"ペン一本渡す為に来た訳では無い様だ…"と。
「今日…、別に、泊まっていっても、イイぞ…」
時間は23時過ぎ、車で来ているとなれば、帰宅し難い程の理由はない。
その上、朝比奈がこの部屋に泊まる事など、ほぼ皆無だ。
この部屋に朝比奈の衣類のストックはない。
平日の朝に、早起きして一度自宅に帰るなど、できれば避けたい事だ。
イコール、断られる可能性がとても高い。
しかし、それに気付いたのは「泊まって行け」と言った後…。
『もっと一緒に居たい』と言って居るも同然だ。
相手はそんなこと全然思っていないのに…。
(なんで、断られるような事、言ってしまったんだろ…)
朝比奈と二人になると、こんな単純なミスを犯す。
他の人間に対しては、絶対に犯さない様な単純なミス。
いつもは、頭の中で考えて自然と言葉を選べるのに、対 朝比奈となるとその能力は発動せず、思った事、はたまた自分の意中とは全く違う事を言ってしまう。
無計画で嫌になる。
「…べ、別に…」と、取り繕う言葉は朝比奈によって絶たれる。
「シャワーお借りします、龍一郎様」
「…えっ?」
龍一郎のサラサラとした洗いたての髪にキスを一つ落とすと、朝比奈はバスルームへ去って行った。
その手を見れば、近所にあるコンビニの袋。
中身を察するに下着だろう。
要するに、朝比奈も泊まる気満々だったと言う事だ。
「へ?なんで?」
あっさりと宿泊を決めた朝比奈に、構えていた心情は抜け落ちて、ポカンとした表情の龍一郎だったが、その唇が触れた部分に手を添えると、その頬に色が差して、鼓動はドクドクと鳴り始める。
ベッドに潜り込むが、まだ体温が移らない布団の中の身体は、シャワーの後より早い鼓動を打っている。
付き合って10年以上経つ相手なのに、毎日顔を合わせているのに…。
そうこう思っている内に、湯上りの朝比奈が部屋に入ってきたのがわかった。
「失礼します」
独り寝には広いキングサイズベッドの真ん中より少し奥側に盛り上がった丘は、そんな言葉にピクリと動く。
柔らかく軽い羽毛布団を控えめに捲ると、こちらに背を向けた龍一郎。
ジッと寝たフリを決めている龍一郎に構う事無く、身をピタリと寄せた朝比奈は、シャワーで温まった手で龍一郎の胸元にある手を取り、そして指を絡める。
「おやすみなさい。龍一郎様…」
「…おや、すみ…」
「起してしまいましたか?」
ワザとらしくそう言った朝比奈の方に向き直した龍一郎は、絡めた手をそのままに、腕枕をしろと、目で指示した。
「お前のせいでな」
龍一郎はツンとした様子でそう言ったが、うす暗い中でも分かる位、近くで見た微笑む朝比奈は、その角をスバっと削ぎ落とす。
「…っ!」
「そろそろ、機嫌を直して頂けませんか?」
「えっ?」
「貴方がイライラしているのを見て、平気な程、丈夫な人間ではありませんから…」
額にキスをして、そう懇願されれば許してやらなくもない。
「明日の朝、お前と一緒に起きる」
「えっ?」
「ちゃんと、起こせ」
「いいんですか?
龍一郎様より、1時間ほど早く起きますが…」
「あぁ」
『一緒に、朝食が食べたい』と素直に言えばいいのに…。
「明日の朝ごはんは、コンビニのパンですが宜しいですか?」
「仕方ないからな」
しかし、朝比奈はしっかり龍一郎の気持ちを読み解く。
「あと…」
龍一郎は、朝比奈の目を見てこう言った。
「…桜、凄くキレイだった…から…。
来年、また、連れて行け…」
その言葉に、少々驚いた表情を見せた朝比奈だったが、次の瞬間には破顔して、その顔に思わず赤面した龍一郎は「もう寝る」と、布団に潜り込む。
「ありがとうございます」
自分でも、発した声が心持ち浮かれている様に感じたが、布団の中の恋人はそんな事より、自分の赤面を隠す事に必死だ。
朝比奈も、龍一郎の後を追って、布団に潜り込む。
そして、その身体を逃げられない様に捕まえると、耳元で囁く。
「おやすみなさい。龍一郎様…」
桜色に染まった頬の熱は、当分引きそうにない。
でも、抱き締められた身体は安心感に包まれたようで、自然と身体の力は抜けて行く。
耳に聞こえる恋人の鼓動は、心地よい子守唄で、龍一郎は眠りの谷に落ちて行った。
勿論、翌朝「眠い…、まだ早い…」と駄々を捏ねるのはお約束…。
ただ、眠たい身体に流し込んだミルクたっぷりのインスタントコーヒーは、毎朝、自分で淹れるモノより、龍一郎好みだった。
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インスタントコーヒーなのに、朝比奈が淹れると絶対龍一郎好みになるとか、萌える。
ちなみに、設定では、出勤中に朝比奈は丸川近くのUSAWAYとか、町のパン屋で龍一郎の朝食を買って、龍一郎はそれを執務室で食べるって感じ。
でも、時間がないからコンビニパンですませちゃう。
でもでも、一緒だからいいよね??
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