彼がジャケットを脱いだら…D | ナノ


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 全ての事が終わったのは、日を跨いだ後だった。
 ベッドの周りには、皺くちゃになった衣類、使用済みのティッシュやらタオル、スキンの空パッケージが数個と、空っぽになったローションのボトル…。
 ベッドの上には、真っ裸の男が二人…。

 朝比奈は、役目を終えたスキンを始末し、龍一郎の腹や、臀部から腿にかけてベタベタと付着した体液やその他諸々を簡単に拭い取ると、普段は足を向けるバスルームには行かず、龍一郎が横たわるシーツに転がり込む。

「シャワー浴びに行かないのか?」

 普段と違う行動を取る朝比奈を不審に思ったのか、うつぶせ寝の龍一郎がそう問うと「はい」と短く答えて、少々乱暴に抱いてしまったその腰に手を当て、何度か撫でる。

「だるい」

 そう言いながら、ゴソゴソと朝比奈ににじり寄った龍一郎は、その胸にスッポリと納まる。

 向き合う様に寝並べば、視線がぶつかり、ふと笑みが漏れる。
 龍一郎が、首に力を入れて、マットレスと頭の間に隙間を作ると、朝比奈はすかさずその隙間に腕を入れ、その小ぶりな頭が何度かゴソゴソと動いて、肩と腕の間辺りで良い感じに嵌る場所を探し当てると、いよいよ隙間が出来ないように、互いにその身に隙間が出来ない様にくっ付き合う。

「明日は昼ごろまで寝ていましょうか」
「生真面目が売りのお前にしちゃぁ、いい提案だな」
「厭味ですか?龍一郎様…」

 何年も一緒に居ると、こうして軽口を叩きあったりする。
 根の性格上、言葉を使って、あからさまに嫉妬したり、甘えたりしないが、それを分かってか朝比奈は、龍一郎の一挙手一投足を見逃すまいと、常に眼中に龍一郎をと捉え、また、常に龍一郎の事を考えるのだ。

「龍一郎様に対しては煩悩ばかりですが…」
「なら、もう少し労え。
 あと、も少し、手加減しろ」

 朝比奈の胸に耳をピッタリつけて、心音を聞けば、自分と同じように早い鼓動が聞こえる。

「申し訳ありません。
 労う事は可能ですが…
 手加減しろと言われましても…。
 ……出来ない相談ですね…それは…」

 朝比奈の言葉を、ダイレクトに聞いた龍一郎はその耳を赤くする。

「お、お前のそういう所、嫌いじゃないぞ」
「お褒め頂き光栄です。龍一郎様」

 心地のよい拘束の中で、情事後の身体は安息を求める。
 ウトウトとまどろみ始めた頭で龍一郎はワガママを言う。

「お前。あんまり人前でジャケット脱ぐな」
「はい?」
「…あの薄い生地の下にお前の皮膚があるってだけでなんかムカツク」
「おっしゃっている意味がよくわかりませんが…」
「とにかくダメだ」
「…はい…、龍一郎様」

 長年一緒に居ても、お互い分からないことはある。
 無論、結局は他人なのだから仕方のないことではあるのだが…。

 朝比奈は、眠りに入る龍一郎の意図が分からず、小首を傾げるのであった。


 と、朝比奈は、サイドテーブルに置かれていた“あるモノ”に目が止まり、ウトウトし始めた龍一郎を起こさないように、手を伸ばした。
 薄明かりの中、鼻先まで持ってきたソレに朝比奈は苦笑する。

「なるほど…」
「なんだ?」
「さきほど、何か言いかけたのは…」

 朝比奈の言葉に、龍一郎は視線をその顔に向ける。

「この事でしょうか?」
「…ぬぁっ!」

 朝比奈が手にしていたのは、現在発売中の女性誌。
 二人が居る暗さでも分かる、記事の見出しは『彼氏にときめく瞬間』

 朝比奈が、ベッドに備付けられているライトを点れば、明るさに目が眩んだ龍一郎は、驚いて目をギュッと瞑る。
 その隙をついて、その中身が良い声色に乗って龍一郎の耳に届く。

「ジャケットを脱いだ彼氏。
 前からみたら普通なのに、後ろから見るとドキっとします(29歳・事務職)…」
「よ、読むな!!」

 慌てた龍一郎が雑誌を奪おうと手を伸ばすのだが、その腕ごと朝比奈に抱かれてしまい、それは叶わない。

「エッチの時、ワイシャツのボタンを外すのが楽しみ!
 完全に脱ぐより、羽織ったくらいでエッチすると燃えるwww
 それに、彼の汗の匂いがしていつもよりドキドキする…。
 そんな、私ってワイシャツフェチ??それともニオイフェチ??(27歳・販売員)…」
「…っ」

 雑誌を元に戻し、ライトを消す。
 小さな明かりとは言え、この暗さの中では、なかなかの破壊力で、2人揃って、目の奥が少し重い。
 闇に慣れるまでに少し時間が掛かりそうだ。

 朝比奈は龍一郎の腰に手を回すと、少し力を入れて抱き締める。
 龍一郎もそれに応えて身体を元の位置に戻し、マットレスと朝比奈の間に腕を突っ込み、その大きな背に抱き付いた。

「そんなものなのでしょうか?」
「しらん!」
「私はいつでもドキドキしますが…」
「えっ…」

 頭を抱えられた龍一郎は、朝比奈の表情を伺えず、その心音と肺で響く声だけが耳に入る。

「龍一郎様が隣にいるだけで、ドキドキします」
「バ、バカか!お前は!」

 暗闇でその色は確認できないが、朝比奈の腕に当たる龍一郎の耳はいつもより熱い。

「いや、ハラハラに近いかもしれません…」
「あーさーひーなー」

 腕の力を緩め、視線を落とせば、膨れっ面の龍一郎。

「はい、なにか?」
「お前、俺のこと、バカにしてるだろ?」
「滅相もない…、小馬鹿にしているだけです」

 龍一郎が朝比奈の背に回した腕に力を入れて、思いっきり抱き締めると、朝比奈はシャンプーの香りが微かに残る髪に、頬を擦り寄せる。

「この井坂龍一郎をバカにするとはイイ性格してるな…」
「小馬鹿です、龍一郎様」
「捨てられても知らんぞ」
「それは困りましたね」

 抱きあっていると、全身からお互いの声が聞こえて、2人はその皮膚さえも邪魔だと思ってしまう。

「お前が、ヨボヨボになってクタクタになってシワシワになったら捨ててやる」
「その頃には、龍一郎様もヨボヨボ・クタクタ・シワシワになってますね、きっと」

 つっけんどんに言い放つ言葉は、どんな愛の言葉よりストレートだ。
 朝比奈は、そんな主を愛してやまない。

「ああ、だから、それまで側にいろ」
「はい、龍一郎様」


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【'JAZZIE'SPEAKSの戯言】

 ども、'JAZZIE'SPEAKSです。
 ここまで、読んで下さりありがとうございます。
 以下、戯言の垂れ流しです。


 書き始めで、朝比奈がノットを少し緩めてるけど、自宅なら、普通取るよね…ネクタイ…。
 でも、朝比奈はどうなんだろ?
 龍一郎様の前なら取らないのかな…。
 何時でも送っていける様にとか考えてたら、滾る。
 あと、書いてる途中に、シャツの下のインナー処理にマヂで困った…。
 休日ならカラーシャツって設定にして…って思ったけど、朝比奈は休日だろうが何だろうが、絶対シャツの下にインナー着るタイプだと思うんだ。
 龍一郎様は面倒だし休日だし…とか思うかもやけど…。
 しかもランニングではなくてクルーネックのTシャツだと思うんだ、朝比奈。
 ランニングなら切るか??とか思ったけど、普通、ベッドルームにハサミとかないよねぇ。
 インナーログアウト…ヤッてるだけなら有りやけど、メインでは無し。
 メインは絶対に原作至上主義やから…。
 ああ、困った
 って思って原作を読み返したら、なんと、朝比奈ったら、シャワーシーンでインナー着てないっぽい??
 前からのアングルないから微妙やけど…(笑)
 普通は絶対に着るけど、原作がそうならOKよね?
 って事で、無事に書けました。
 原作至上主義とか言いながら、エッチ中の龍一郎様って龍一郎様じゃねぇな。
 デレすぎだろ??
 でも、龍一郎様はMッ気もSッ気もあるけど、本質的に攻めタイプの受けなんだよ。
 「自分のモノ」って意識が凄い強いけど、ソレを相手にも求めてしまったりして…ああ、可愛い。
 つか、ウチが書くセックス描写ってどうなんだろ?
 頑張って書いてみたけど…所詮は男女間の描写に近くなってしまう…。
 もうウチの頭のなかでは、完全に映像化されてます…。
 ちゃんと書けてます??


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