2012-03-05
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「痛い…おい、朝比奈、痛い…」
ズキズキと痛むのは、頭だけではないが、どちらか言うと頭の方が痛い龍一郎は、米噛みをグイグイと押さえ、やり場のない苦しみを朝比奈にぶつける。
「頭痛は、龍一郎様の責任ですよ」
二日酔いの薬と水、「胃がムカムカ」するとぼやく龍一郎の為に、薬負けしないようにと作った葛(くず)湯を乗せた盆を、ベッドサイドに置いた朝比奈は、龍一郎に占領された自分のベッドに腰を降ろす。
「あぁー、痛い…。
てか、俺、いつ帰ってきた?」
「はい?」
「いや、だからさ、橋本の嫁と飲み始めたトコまでは覚えてるんだけどさ」
「覚えてないんですか?」
「何をだ??」
小首を傾げる龍一郎だったが、顔はスグに頭痛によって歪んでしまった。
「いててて…」
「はぁ…」
「なんだよ、その溜息…」
「いえ、覚えてないのであれば、それでいいと思います」
「よくねぇーよ!…って、いたたた…」
「あまり大きな声を出すと、頭に響きますよ。
さぁ、胃が空っぽじゃ薬も飲めませんから…。
ほら、葛湯なら飲めるでしょ?」
朝比奈は、葛湯の入ったマグカップを龍一郎に渡す。
「まぁ、貴方に『不安』は似合いませんよ」
「ん?」
「いつも、自信たっぷりで、傲慢な貴方がイイと言っているんですよ」
「それ、貶(けな)してないか?」
「いえ、褒めてますよ、龍一郎様」
「…っ」
いつもの調子の厭味も頭痛のせいで反撃出来ず、葛湯を半分程飲み、龍一郎は溜息を吐く。
そんな龍一郎の髪を撫でながら、朝比奈は口元を緩ます。
「龍一郎様」
「なんだ?」
「愛しておりますよ」
「!!」
唐突に甘い言葉を言われ、声の主を見ると、その優しい表情に照れてしまい、結局、黙って残りの葛湯を飲み干すしかなかった龍一郎であった。
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