2012-03-05
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「で、貰ったのか?」
脱いだコートを朝比奈に預けると、カーペットとファンヒーターの電源を入れた。
そして、朝比奈は俺の方を向いて小首を傾げる。
「はい?」
「チョコ…、バレンタインだろ?今日」
「ああ」
合点いったのか、朝比奈は一瞬止まった手を再び動かして、俺のコートと自分のコートをハンガーに掛けた。
その足でキッチンに向かい、ワインとグラスを2脚、皿にあけたキューブタイプのチーズを持って、リビングに戻ってきた。
「いいえ。第一、貴方が居るのに、そんなもの貰う必要ありませんから」
さらりと言われると、妙に納得してしまう。
朝比奈のオンリー1もナンバー1も、昔から俺なのだ。
キュッキュッとコルクに刺さって行く銀色の渦を見ながら、俺はここに来た理由を思い出す。
「おい、朝比奈」
ポンっと、小気味の良い音を鳴らしてコルク栓を抜いた朝比奈が、ちらりと俺を見て「なんですか?」といつもの調子で、答えた。
「お前は俺のモンだ」
「はい」
「だから、首輪をやる」
「私は、犬ではありませんよ」
コポコポと、ワインがグラスに注がれる良い音を掻き消して、俺は鞄の中からガサガサと、小さな紙袋を取り出し、ローテーブルの上に置いた。
朝比奈は、グラスを俺の前に差し出し、その手で「ありがとうございます」と小包を自分に手繰(たぐ)り寄せると、紙袋の中を覗き「首輪にしては小さいですね」と小さく笑って、サテン布で覆われた小箱を取り出し、中身を改めた。
「本当の首輪じゃ、みっとも無いからな」
「確かに首輪を付けた秘書が隣に居ては、龍一郎様の品位にも係りますからね。
に、しても小さな首輪ですね」
小箱から視線を上げた朝比奈は、俺を見て微笑んだ。
きっと俺の顔は真っ赤だ。
朝比奈は、その小箱から銀色に光る小さな首輪と手に取ると、迷うことなく左手の薬指に嵌めた。
「そ、そこに嵌めてイイのかよ!」
「ここ以外に嵌めてよろしいのですか?」
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