暑いのは



 日差しはこれでもかというくらいに強く、蝉はここぞとばかりに大合唱をしている。滴り落ちる汗が憎らしいがそれよりも、早く癒しにありつきたいと足を速めた。今は放課後、といっても夏休み中なのでほとんど生徒は校内に見られない。私と月子ちゃん以外、男しかいないこの学園は暑い季節はもうほんと死んでくれと思うくらいむさくるしく、うんざりしていた。ほんと休暇って最高。
 そう思いつつ購買に寄ってアイスを買って、想い人に会うため生徒会室に急いで向かうと翼くんが茹だっていた。 もう、今にも溶けてしまいそうな勢いで。

「翼くん!?だ、大丈夫?」

 翼くんが寝そべっている茶室に少し寄って、声をかけてみる。
どうやら熱や体調不良ではなさそうだ、顔色はいいみたい。ほっとして彼の柔らかい髪に指を通すと、気持ちよさそうに唸り身をよじった。男の人なのにどうしてこんなにかわいいんだろう。

「ぬ〜ん…」
「もう、びっくりした…倒れちゃったのかと思ったじゃない……」
「ぬ!…星河!!」

 彼はぼんやりしていたのがしっかり覚醒したのか、咄嗟に起き上がり瞳をキラキラと輝かせた。
次いで、ぎゅっと抱きしめてくるままに身を委ねていると、ちゅっと頬に柔らかくキスを落とされた。

 最初こそされる度に恥ずかしくて慌てたものだが、今は慣れたものでお返しにとキスし返す事すらできる。すると彼はにわかに目をみはって嬉しそうに微笑むのだ。本当に嬉しそうにしてくれるから、私もつられて笑顔になる。なんていい循環だろうか。

「それだけ元気ならアイスいらないかな?」
「ぬぬぬ?元気なのと、アイスいるいらないは関係ないと思うのだー!!」
「ふふふ、そうだね…!」

 二人笑いあってちょっとだけ溶けてしまったアイスを仲良く食べる。冷たくて、甘くて、美味しくて。暑さとか感じないくらい……いや、それは嘘。翼くんは私を膝にのせてぬいぐるみを抱えるようにソファに座っているから、冷房が効いている生徒会室といえど先程から暑い。
ーーーーいや……もう、こうなってしまっては何が原因で暑いかどうかはわからないが。
 私が慣れたのは外人よろしく、挨拶のキスだ。好きな人とこんなに密着していて恥ずかしくないわけなかった。先程翼くんのおねだりに負けた私を恨む他ない。


「も、もう翼くん…アイス食べ終わったしょ……ごみ捨てなきゃ……!」

「うーんでもいま星河に感謝を込めてるのだ!ぬぬ〜ん!!!ぬぬぬ〜ん!!」
「う、うん!わかった!わかったよ!」
「……ぬ、本当にこのきもち、伝わったか…?」

 顎を掬い上げられて目線が嫌でも合わさり泣きそうな、懇願するような瞳から目が離せず息を呑む。漂う甘い空気に私のキャパシティはパンク寸前である。

「うっ、あっ……伝わってる、から……」

 ようやっと口から出たのは、湿度の高い部屋に似つかわしくないような乾いた声で。余計に恥ずかしさが募る。

「星河」

 翼くんは少し意地悪な笑みを浮かべて私にまっと顔を近づけた。 あっ、キスされる。
 そんな唇の触れるような距離で感謝が伝わってないようだからキスする、だなんて言われてももうキスしてるじゃないなんて言えなかった。喋ったら私からキスしてしまう。
そうやって私がうんともすんともいないでいると、いつの間にか添えられた手に頭を押さえられ、彼は強引に唇を重ねた。

「んんっ…ちょ、あっむ……ん〜!!!」
「〜〜んっは!ぬはは!!星河!顔真っ赤だぞー!!」

 次第に深くなる口づけに腰砕けになっていると、彼はいまのいままで男の顔をしてたのにぱっと少年の顔になって豪快に笑った。
切り替えが早いのも困り者だ。私はいつも振り回されてばかりいる。そんなところが彼の好きなところの一つでもあるけど、心臓が持ちそうにない。


「もう!つっ翼くんのばかぁ!!もうアイスなんて買ってやんない!」
「ぬがっ!?それは嫌なのだー!」
「いっいきなり、びっくりしたんだからっ…!!」

効果音が聞こえてきそうなほど落ち込む翼くんに少しは私にも振り回されなさい!という気持ちがないわけではないが、いささかこちらがイジメたような落ち込みかたをするので私はまたほだされてしまう。

「……んー…いきなりじゃなかったらいいから、ね?いきなりは恥ずかしいの…」
「じゃあ今度からキスするって言えばいいのか〜?そうすれば、俺がしたいことしてもいいのか……??」
「えっ!?ちょ、それは、」
「星河の考え方からいくと…」
「きゅ、急にこんなことで真面目になんないの!!もう!」

危ない危ない。流されるところだった。
一度離れた体を再度詰めるようにする翼くんを制止落ち着かせる。

男の人の翼くんも、少年のような翼くんも好きだけど心の準備がほしいなんて私がわがままなんだろうか。

-END-



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