その手が触れる場所に[1]
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俺の下で、ナマエが押し殺しきれなかった嬌声を上げて達した。
その締め付けに俺もまた、ナマエの腹の上に欲望をぶち撒けた。

しばし、互いの荒い呼吸だけが室内を満たす。
快楽の度合いだけで言えば、十分に満足出来た。
だが俺は、悄然たる思いを抱えてナマエの上から身体を退けた。

今日もこいつは、こいつは俺に指一本触れやしなかった、と。

視線の先、ナマエの華奢な指先は俺が脱がせた襦袢の端をきつく握りしめている。
最初から最後まで、ずっと。
達する瞬間でさえ、ナマエは俺に縋らねえ。
身体を重ねるようになってから数ヶ月、ナマエが俺の背に腕を回したことは一度たりともなかった。

「大丈夫か、」
「はい」

じわりと滲み出た汗で張り付いた前髪を梳いてやれば、ナマエは気持ち良さそうに目を細める。
決して、俺に触られても嫌がる素振りはねえ。
身体を重ねることに関しても、積極的とは言えねえが、嫌々抱かれてるという訳でもなさそうだ。
嫌われてはいねえ、むしろ、好かれている、と思う。
思うのだが、流石にここまで徹底して俺に触れないナマエを見ていると、自信もなくなるというものだ。

「眠いならこのまま寝ちまえ」
「いえ、部屋に…」

瞼を重そうに持ち上げようとする様子を見兼ねてそう言えば、ナマエは緩く首を振って身体を起こそうとした。
それを、肩を押さえることで阻止する。

「いいから寝とけってんだ。気にすんじゃねえ」
「お仕事の、邪魔になりませんか」

それでもなお心配そうに見上げてくるナマエに、苦笑いが漏れる。
もちろんナマエにそんなつもりはないのだろうが、言葉の裏に最近仕事ばかりで碌に構ってやれなかった事実を読み取ってしまい、些かばつが悪かった。

「今日は俺ももう寝る。だからいいんだよ」

これ以上の問答を続けないために、俺はナマエの横に寝転んだ。
そんな俺を見て、ナマエはようやく納得したように微笑むと。
おやすみなさいと小さく呟いて、すでに限界が近かったのだろう、すぐさま眠りの中に落ちていった。

「…ああ、おやすみ」

微かな呼吸音を聞きながら、その身体を抱き寄せる。
腕の中にすっぽりと収まる小さな身体から伝わってくる熱に、じわりと心が揺れた。
行灯の明かりに浮かび上がるその表情は穏やかで、安心しきっているように見える。
直接的な言葉を交わしたことこそねえが、互いに想い合ってこうして傍にいるはずだ。

それなのに。

「お前はなんで、俺の背に手を回さねえ…」

思わず漏らした声があまりに情けなくて、俺は鼻を鳴らした。

下らねえ、馬鹿馬鹿しい。
以前の俺なら確実にそう思っただろう。
そもそも、最中に女が自分の背に腕を回しているか否かなんざ、気にしたこともねえ。
身体を重ねるという行為は、快楽さえあればそれで良かった。
言葉を注ぎ込むのは面倒だったし、やたらと縋られ触られるのも嫌いだった。

だが、この状況は何だ。

ナマエに触れられないことを、こんなにも不安に思う自分がいる。
もしかしてナマエは、俺に抱かれるのは嫌なのではないか。
俺はただ副長という立場を振りかざして、ナマエを無理矢理抱いているのではないか。

「…くそ、」

俺は小さく毒付いて、布団の中でナマエの手を探り当てた。
決して俺の背に回されることのない、その手を握り締める。

この手に触れられたかった。
この手で確かめて欲しかった。

これは、過ぎた願いってやつだろうか。
人斬り集団と呼ばれる新選組の指揮を執る鬼の副長には、所詮叶わねえ願いなのかもしんねえ。
こんな綺麗な手に触れられる資格なんざねえと、そういうことかもしんねえ。

だが、せめて今だけでも、と。
俺は繋いだ手をきつく握り締めた。






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