Z-恐怖に震え-[2]仕事を終えて、帰ろうとしていた時だった。
ロビーでたまたまバニーちゃんに会った。
今思えばあれは、待ち伏せだったのかもしれないけど。
流れで一緒に帰ることになり。
その途中、不意に真剣な声で名前を呼ばれて思わず立ち止まれば。
貴女のことが好きです。
僕とお付き合いをしてください、と。
こっちが照れてしまうほど真っ直ぐに見つめられて、硬直して言葉を失った。
見つめてくる瞳は切なげで、肩は震えていた。
ああ、初めてなんだろうなと感じた。
バニーちゃんの過去は、本人から聞いていて。
両親のこと、ウロボロスのこと。
そしてようやく討てた仇。
そのためだけに生きてきた20年間。
だからきっと、恋愛なんて初めてで。
不器用に真っ直ぐに、想いを伝えてくれたことは嬉しくて。
でも、応えられなかった。
バニーちゃんにはもっといい子がいるって、なんて。
そんな残酷な台詞を吐いて、その場から逃げ出した。
「…なるほどね」
事の顛末を話し終えると、虎徹さんが静かに頷いて。
「つらかったな」
その一言に、不覚にも泣きそうになった。
「…バニーちゃんて、きっと純粋で綺麗な子だと思ったんです。私なんかじゃ、釣り合う訳がないって」
純粋で無垢で、汚れを知らない。
そんな子だと思った。
それに比べて私はどうだろう。
バニーちゃんには話したことのない、汚れきった過去がある。
幼かった私を虐待し続けた、今は行方知らずの父。
私の目の前で飛び下り自殺をした母。
それ以来独りで生きていく為に、身体を売り、男と寝て。
荒んだ生活を送った。
TopMaGに入社して、生活は改善されたものの。
結局失う恐怖に怯え、人に絶望した心は凍りついたまま。
来る者拒まず去る者追わずの、いい加減な異性関係。
仕事に生きて、それだけでよかったはずだった。
そういった意味では、もしかしたら私とバニーちゃんは似ているのかもしれない。
「でも、違うんですよね…」
バニーちゃんにはもっと、綺麗な子が似合う。
ルックスではなく、中身とその生きてきた境遇が。
こんな、誰とでも寝てきたような汚い女は似合わない。
「…言いたいことは分かるけどなあ、ナマエ。おじさんは納得しないぜ」
虎徹さんの声は、不機嫌さが滲み出ていた。
「似合う似合わないの問題か?相手のためにって考えるのはお前のいいところだが、欠点でもあるぞ」
そう、指摘されて。
「バニーは、お前がいいって言ったんだろ?ならそれでいいじゃねえか。あとはお前が、あいつをどう思ってるかだろ?」
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