W-思い悩む-[2]
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するとそこに。

「お疲れさま〜」

明るい声が飛び込んできて。
今日ずっと聞きたかった声。
弾かれたように顔を上げれば、ちょうどナマエさんがトレーニングセンターに入って来るところだった。

「ネイサン、バニーちゃん」

ナマエさんが僕たちを見て、にっこり笑う。

「あらナマエじゃない、お疲れ〜」

ファイヤーエンブレムがひらひらと手を振った。

「さっきブルーローズがあんたに会いたがってたわよ」

この2人は仲がいい。
というより、ナマエさんはヒーローの皆と仲がいい。
所属の会社に関わらず、彼女は皆にトレーニングプログラムを提供したりしているらしい。
一緒に飲みに行った話なんかもよく聞いた。

「あ、ほんとに?後で顔出しておこうかな」

ナマエさんが、ファイルを近くのベンチに投げ出して言った。
そのまま彼女はそこに腰掛けて、いつもみたいに長い脚を組む。
ファイヤーエンブレムがその隣りに座って、僕もタオルを首にかけて立ち上がった。
すぐ隣りに座るのは、なんだか気が引けて。
後ろの壁にもたれ掛かる。

「そういえば、聞いたわよ〜」

ファイヤーエンブレムの楽しそうな声。

「ん?」

ナマエさんは手元のファイルを開きながら聞いている。

「あんた昨日ロックバイソンと飲みに行ったらしいじゃない。アタシも行きたかった〜」

独特の語尾に苦笑しながら、ナマエさんはそれを肯定して。

「ほんとは虎徹さんも一緒のはずだったんだけど来れなくなっちゃってさ」

そう説明する。
ファイヤーエンブレムは、羨ましいだのお尻がどうのと騒いでいて。
僕も、ロックバイソンさんが羨ましいと思ってしまった。
そんな風に気軽に彼女と飲みに行けるような、そんな間柄。
僕にはまだ遠そうだと、手元の紙にペンを走らせるナマエさんを見ながら考えて。

「さてと、そろそろ行こうかな」

ナマエさんが、今だ独り語りを続けるファイヤーエンブレムを置き去りにして立ち上がる。

「あら、もう行くの〜?」

つまらない、とファイヤーエンブレムが唇を尖らせる。

「斉藤さんに呼ばれててね」

ナマエさんはそう言って歩き出す。

「あ、そうだバニーちゃん」

その背を見送っていた僕の視線の先で、不意にナマエさんが立ち止まって。

「今日はこっちね」

ファイルの中から1枚の紙を引っ張り出して、ひらりと手渡される。
そして僕の返事も聞かずに、トレーニングセンターを出て行った。

何のことかと、手渡された紙に目を通せば。
それは、ナマエさんの筆跡で書かれたトレーニングプログラム。
いつもと違うのは、ベンチプレスやら何やらの、腕を鍛えるトレーニングメニューがなくなっていること。

「なんで分かったんだ…」

思わず、そう呟いてしまった。

確かに今朝から左腕に僅かな痛みを感じていたが、本当に大したことはなくて。
トレーニングもいつも通りでいいかと思っていたのに。
今の、ほんの少しの時間で、ほとんど腕なんか動かしてないのに、ナマエさんは気づいたらしい。

メニュー表の1番下ある走り書き。

"無理しないこと!"

そう言って怒る姿が目に浮かんで。
ちゃんと僕のことを見てくれていたんだと思うと、嬉しいやら照れ臭いやら。
胸がいっぱいになった。


「あー、アタシ分かっちゃった。恋だね、ハンサム」

不意に、ファイヤーエンブレムにそう言われて。

「…は?」

思わず言葉を失った。


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