いつかどうしようもなく泣きたくなったその時は[2]「珍しいですね、ナマエ。貴女が約束してないのに来てくれるなんて」
広い部屋のカウチに腰掛けて本を読んでいたバーニィは、突然の訪問に驚いたようだった。
「ごめん、迷惑だった?」
バッグを床に下ろすこともせずに突っ立って、恐る恐るバーニィを見上げれば。
「まさか。すごく嬉しいです、貴女から来てくれるなんて」
立ち上がったバーニィは、本当に嬉しそうに笑って私を抱きしめた。
シトラスと汗の混じった、バーニィの匂い。
広い胸元に顔を埋め、その匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。
「どうしたんです?今日はずいぶんと甘えたさんですね」
頭上で、バーニィの不思議そうな声。
でもそこに、不快感はなく。
ただ優しく、柔らかく。
あたたかい音で。
「寂しかったんですか?」
子どもを相手にするみたいに尋ねられて、いつもだったら確実に否定するようなこと。
そもそも、いつもだったらこんなことを聞かれるようなシチュエーションにはならない。
でも今日は、素直にこくりと頷いた。
冗談のつもりで聞いたのだろう、バーニィが驚く気配。
恥ずかしくて、顔を上げることができない私の髪を。
バーニィが、そっと撫でる。
「…嬉しい」
バーニィは、そう呟いて。
私の髪を何度も梳いた。
「貴女がそんなふうに、俺のところに来てくれるなんて」
今までは弱いところなんて見せてくれなかったから、と。
バーニィはゆっくり私の身体を離して。
いまだに俯いたままの私の顎に長い指を引っ掛け、そっと掬い上げるように。
ようやく合わさる視線。
翡翠の瞳は、慈しむような色を湛えて私を見つめていた。
「貴女に必要とされるだけで、俺は満たされるんです」
その言葉はきっと、彼の本心。
そう思わせてくれるほどの愛情が、瞳の奥にはあった。
「…ありがとう、バーニィ」
なんだか、訳も分からず泣きそうになった。
頬に添えられた手の温かさが、見つめてくるその瞳が。
ただ、嬉しい。
ありったけの愛情で、私の中を満たして。
さっきまで感じていた痛みを、呆気なく消し去ってくれる。
だからこの人には敵わないと、私がようやく笑えば。
バーニィも、クスリと笑った。
「たまにはいいですね、素直な貴女も」
そんな言葉でからかわれて。
拗ねるしかない私を、もう一度柔らかく抱きしめてくれる。
「好きですよ、ナマエ。俺は貴女の味方です」
耳元に落とされた、その声に。
今度こそ本当に涙腺が緩むのを感じて。
「…ばか」
そう強がることしかできなかった。
それがただ、幸せだった。
いつかどうしようもなく
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