私の家のキッチン事情[1]じゅうっと激しい音がして。
香ばしい匂いがキッチンに充満した。
あらかじめニンニクをじっくりと炒めておいたフライパンの中に、一口サイズの鶏肉と玉葱を加える。
うっすらと煙を上げるフライパンを揺すって炒めた。
ほんのりと、焦げ目がつくまで。
そこに、特製のソースを入れて煮絡める。
今日は和風に照り焼きだ。
甘辛い匂いが食欲をそそる。
ソースが煮詰まれば皿に移し、付け合わせにほくほくのじゃがいもとアスパラガスを。
冷蔵庫の中からサラダを取り出して、鍋に作っておいたスープをよそう。
夕食の完成だ。
3人分のそれを、ダイニングテーブルに持って行けば。
「おっ、いい匂いだな」
客人の、嬉しそうな声がした。
1時間ほど前。
ただいま帰りました、といういつも通りのバーニィの声を遮って。
よっナマエ、と聞き慣れた人の声がした。
バーニィの相棒であり、私の長年の友人でもある虎徹さんの姿がそこにあって。
私は突然の訪問に驚きながらも、お帰りなさいと笑った。
話を聞けば、バーニィが会社を出るところで偶然虎徹さんに会ったらしく。
そのまま虎徹さんが強引に家まで着いて来てしまったというわけだ。
そう嫌そうに説明したバーニィは、でもその苦々しい表情とは裏腹にどこか嬉しそうで。
素直じゃないなあ、なんて言葉は飲み込んだ。
折角来て貰ったのだからと、食事を振る舞うことになり。
幸い材料はたくさんあったから、急遽3人分の夕食を作ったというわけだ。
「何か手伝えることありますか?」
ひょこり、とバーニィがキッチンに顔を出した。
「ありがとう。じゃあ、そこのスープを運んでくれる?」
3人分の皿をダイニングに運ぶのは、実は大変なのだ。
「わかりました」
嫌な顔一つせず手を貸してくれるバーニィに感謝して、私は残ったサラダをトレンチに乗せた。
「ナマエ」
呼ばれて、振り返る。
気が付けば、スープを運び終えたバーニィがすぐそばに立っていた。
「今日のディナー、凄く美味しそう。いつもありがとうございます」
端正な顔が、目前に。
ちゅ、と軽いリップノイズ。
いつの間にか私の腰に手を回していたバーニィが、頬に口づけていた。
私はびっくりして、危うくサラダをひっくり返すところだった。
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