どうぞ穏やかな愛を[2]ぼろり、と涙が頬を伝い。
とにかくびっくりした。
「バーニィ?」
何で泣いているのか、分からなくて。
ただ名前を呼ぶことしかできなかった。
「…っ、すみま、せ…っ」
嗚咽に交じった、震えた声。
スプーンを握りしめたまま、バーニィはぼろぼろと涙を零していく。
一言謝ったきり、泣き声を上げまいと唇を引き結んで。
静かに泣き続ける姿に、心臓を鷲掴みにされたような思いがして。
理由も、何も分からないまま。
でも、このままにはしておけなくて。
涙で濡れた彼の頬に、そっと掌を当てた。
「バーニィ」
潤んだ翡翠を覗き込む。
柔らかく、名前を呼んで。
「何が、悲しい?何が、つらかった?」
ハニーブロンドを、こめかみの辺りからそっと梳く。
「…何が、嬉しかった?」
もう片方の手で、きつく噛み締められた薄い唇に触れた。
親指の腹で、つう、となぞれば。
唇がうっすらと開き、途端に嗚咽が漏れ聞こえる。
「…っう、ぁ…、これ、おいし…いっ、です」
途切れ途切れに、告げられたのは料理の感想。
「誰か、に…っ、ご飯を作っ、てもらった…の、は、久しぶり…っだ、ったので」
そう言って、泣き続ける。
胸の奥が、じん、と痺れた。
そういうことなのか、と納得する。
誰かとご飯を食べる、外食ではなく、こうして家で。
ずっと忘れていたのだろう、手料理の味。
自分のために、作られた食事。
その、あたたかさ。
それが、ただ、嬉しいということ。
まるで幼い子どもみたいに、しゃくりあげながら泣く彼を。
とても、とても愛おしく思った。
髪を撫で、頬を包み込み。
「もう、泣かないで」
優しく甘く、言葉を落とす。
「これからはいつだって、好きな物作ってあげるから」
そう言えば、一層ひどくなる嗚咽に苦笑い。
「ほら、それ以上泣いたらしょっぱくなっちゃう」
くすり、と喉を鳴らして。
真っ赤になった目尻を、そっと拭う。
濡れた睫毛が、指先を擽った。
最後に、瞼の上にキスを一つ。
「おかわりあるから、言ってね」
そう言って微笑めば。
バーニィは、涙でぐちゃぐちゃになった顔を綻ばせて。
「はい…っ」
とても、とても幸せそうに笑った。
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