隠し味に愛を少々[4]「美味しいっ!」
スプーンに、クリームソースとじゃがいもを掬って一口。
ナマエは、咀嚼するなり声を上げた。
吸い込まれそうなほど真っ黒の瞳を、きらきらと輝かせて見つめられて。
なんだか妙に照れ臭くなった。
「すごい、バーニィ、これ美味しいよ」
手放して称賛され、ほっと胸を撫で下ろす。
多分、たとえ不味かったとしてもナマエは文句一つ言わずに食べてくれるだろうけど。
どうやら、ちゃんと美味しいらしい。
僕も一口、スプーンで頬張る。
不味くは、ない。
だがやはり、ナマエの味には到底及ばない。
そう、思うのだが。
ナマエは美味しい、と幸せそうに笑って。
一口一口、味わうように食べてくれる。
それだけで、僕は幸せだった。
ナマエはその後、付け合わせのパンで皿に残ったソースを綺麗に掬い。
全部食べ終えてから、満足そうに笑って。
「ごちそうさまでした。ありがとう、バーニィ」
向けられた、極上の笑み。
とくり、と胸が高鳴った。
ナマエと付き合ってから、もうずいぶん経つけれど。
今だに僕は、ドキドキさせられっぱなしだ。
それが少しだけ悔しい。
けれどやはり、それも嬉しい。
なんとも複雑な気分だ。
「あ、片付けくらい私やるよ」
そう言うナマエを、リビングのソファに無理矢理座らせて。
手早く食器を洗う。
こんな、こんな夜の過ごし方が、とても好きになった。
今までは独りでいることが当たり前で、食事は大体外食だった。
人の家で、一緒に食事をして。
まさか自分が作って、片付けをするなんて。
想像もしていなかったのに。
今は、こんな日々がいつまでも続けばいいと願っているなんて。
濡れた手をタオルで拭いてリビングに戻れば、ソファに腰掛けたナマエが。
「バーニィ」
ひどく甘い声で名前を呼んで、両手を広げた。
もうスーツ姿ではない。
すらりと長い脚を剥き出しにするショートパンツと、首元が大きく開いたニット。
なんて、魅力的な誘い。
ソファに片膝をついて乗り上げ、背もたれに両手を掛ければ。
腰に回される、ナマエの腕。
僕の両腕の間から見上げてくるナマエの、幸せそうな笑顔。
下がった目尻、弧を描く口元。
僕が好きな、ナマエだ。
「ご褒美、くれるんですか?」
本当は、そんなつもりはなくて。
むしろ仕事を頑張ってくれたナマエに、感謝とご褒美のつもりで夕食を作ったのだから。
そこに更なる見返りを求めるのは、本末転倒なのだけれど。
目の前にそんな姿を晒されて、求めるなというのは無理がある。
「ん、好きなだけね」
下からは、挑発的な甘え声。
それに応えるように、その唇を塞いだ。
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