幸せな微睡みを[1]静寂を、静かに切り裂いて。
体温を感知するとスライドして開くドアの音で、意識が僅かに浮上した。
部屋の中に、人が入ってくる気配。
「…ナマエ?」
次いで、驚いたような声。
そういえば、今日ここに来ることは言ってなかった気がする、と。
ぼんやりする頭で考えた。
きっと、帰宅してみればリビングで眠る恋人の姿があって驚いたのだろう。
しばらく黙って立ち尽くしていたバーニィは、やがてくすりと笑って。
「そんな所で寝て、風邪をひいたらどうするんですか」
そう呟いた。
その、声音が。
いつもよりも、ずっと甘くて。
普段からバーニィが私に向ける声は甘いけれど、それ以上に。
蜂蜜を溶かしたみたいに、とろりと甘ったるくて。
思わず、開きかけていた瞼をもう1度下ろした。
「仕方ない人ですね」
瞼を閉じていても目に浮かぶ、そう言って苦笑する姿。
バーニィがベッドの代わりになっているソファに近づいてきて。
不意に、頬に感じた温もり。
長い指先に、そっと撫でられる感触。
「ナマエ…」
柔らかく、静かに名前を呼ばれて。
胸の奥が、じわりと暖かくなった。
バーニィの指が何度も髪を梳くのを、黙って感じていた。
なんというか、完全に目を開けるタイミングを逃してしまった。
ちょっとした気まぐれで始めた狸寝入りだったが、今はこの優しい空気が愛おしくて。
もう少し、このままでいたいと。
そう思っていると。
「ねえ、ナマエ」
明らかな呼びかけの形。
起きていると気づかれたかな、と思ったが、どうやらそうではないようで。
「貴女が、好きです」
それは、私に向けられたバーニィの独り言。
頬を包み込まれて。
心臓が、とくりと音を立てた。
「好きすぎて、仕方ないんです」
それは、切なく甘く。
私の鼓膜を揺らす。
ちゅ、と小さなリップノイズ。
一瞬だけ掠めた温もり。
「ナマエ」
愛おしさが募った。
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