信じる者の幸福[3]失えない人がいる。
失えないものがある。
それは、ひどく怖い。
大切なものを持たなければ、知り得ない感情。
だが、もう知らないことには出来ない。
現に私には、絶対に失えないものがある。
泣き叫べたら、どんなに楽だろう。
嫌だと現実を突き放せば、きっと逃げ出すことはできる。
だが、そうはしたくないのだ。
信じて、信じて。
苦しいほど祈って。
ただ、帰りを待つ。
どうか無事でと願う。
「バーニィ…、負けないよ」
今、きっと彼は戦っているはずだから。
世界中が諦めたとしても、私は信じていたい。
無事を、勝利を、信じていたい。
誰よりも、何よりも。
とりあえず、まずは通信機能を回復させるのが先決だ、と。
原因を探し出す。
「…これ、かな」
たん、とエンターキーを叩くと。
ノイズ混じりの、微かな人の声。
「バーニィ!?虎徹さん!?」
後はアンテナを調整すれば、とキーを弾く。
突然、それまでの雑音が消えて。
「ナマエですか?!」
耳元に、待ち望んだ声が届いた。
「おー、ナマエか!」
虎徹さんの声もする。
「よかった…2人とも」
安心して、声が震えた。
よかった、ちゃんと無事だ。
「ご心配をおかけしました」
バーニィの柔らかな声音に、もっと涙腺が緩んだ。
微笑む姿が目に浮かぶようで。
「怪我、してない?大丈夫?」
爆発の後初めて、肩の力が抜けた。
「はい、僕らは無事ですよ」
その、ずっと聞きたかった言葉に。
大きな溜息を1つ。
椅子の背もたれに、背中をぐっと押し付けた。
「犯人も、あと1歩で追い詰めれるぜ!」
虎徹さんの、得意げな声。
この2人は大丈夫だ。
いつもと、何も変わらない。
私が信じていた、ヒーローだ。
「…早く、早く帰ってきてね」
ぽつり、と小さく呟けば。
「はい、すぐに貴女の元に」
返される、バーニィのなんだかクサイ台詞。
普段は笑うそれも、今はとても頼もしくて。
ひどく、安心感をくれる。
ああ、やはり彼がいなければ私は駄目なのだと。
その存在の大きさを、痛感させられる。
なんだか悔しくて。
きっと笑っている彼の表情を思い浮かべると、恥ずかしくて。
「生きて帰って来なかったら殴ってやる!」
マイクに向かって怒鳴った。
クスクスと、楽しそうに笑ったあと。
「それは困りましたね」
バーニィは、ちっとも困ってなさそうな声でそう言った。
「あと少しです、待っていて下さい、ナマエ」
最後にそう言って、きっと微笑んで。
バーニィと虎徹さんは、行くかと声を掛け合うと。
小さな爆発音や物が倒れる音を背後に、駆け出した。
私の元に、早く帰ってきて。
ちゃんとここで、待っているから。
帰ってきたら、早くても遅くても、心配させた罰だと1発殴ろう。
その後に思い切り抱きしめて。
おかえり、と笑おう。
そんな数時間後を、私は心の底から信じている。
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