2人を抱きしめた夜[1]ぼすん、と飛び込んできたその人は。
胸板に顔を押し付けて、何も言わず。
ただ、僕のジャケットの裾をぎゅう、と握りしめた。
「…ナマエ?」
一体どうしたのかと、声を掛けてみても返事はなくて。
僕はそれ以上の言葉を発するのはやめた。
腕を持ち上げて、ナマエの頭をぽんぽんと撫でる。
いつものナマエなら、子ども扱いしないでよと文句を言うところなのに。
彼女は無言のままだった。
こんな風に、ナマエが甘えてくることは非常に珍しい。
今から家に行っていい、とメールが来た時から何かおかしいとは思っていたが。
一体何があったのだろう。
とても気になって、とても心配になった。
何かに落ち込んでいるのか、不安を感じているのか。
何も分からなくて。
でも、彼女が言いたくないのなら僕は聞かない。
話したいと思ってくれるまで、待っていたい。
こんな風に縋ってくれるのなら、全て受け止めてあげたい。
いつも、いつだって、彼女は僕を包み込んでくれたから。
少しでも、返せるといい。
彼女に救われてばかりの僕だけど、今度は僕が支えてあげたい。
両腕を、ナマエの背中に回して。
広い部屋の真ん中に突っ立って、僕はひたすら彼女を抱きしめていた。
やがて、それまで静寂に包まれていた空気を僅かに揺らしたのはナマエだった。
「…あのね、」
消え入りそうな声に、はい、と相槌を打つ。
「別に、何があったってわけじゃないんだけどね」
「はい、」
「ただ、バーニィに会いたかったんだ」
その言葉が、真実の全てじゃないことはすぐに分かった。
でも、嘘じゃないことも分かっていた。
「はい、」
だから、そう答えて。
抱きしめる腕の力を強くした。
「…なんか、ごめん」
「ナマエ、謝らないで下さい」
この、腕の中の人は。
小柄な女の人で、決して強いわけじゃないのに。
人に弱さを晒け出すことが苦手で。
いつだって、強く明るくあろうと無理をする。
独りで大丈夫な振りをして、平気な顔ばかりで。
臆病さなんて、絶対に見せまいとするけれど。
僕だけは、ちゃんと気づいてあげたい。
本当は強くなんかなくて、いつだって足りない何かを求めているんだと。
それは、何も悪いことなんかじゃない。
ましてや迷惑でもない。
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