光も影も、貴女がくれた[1]
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それは卓袱台会議という、酷く酔狂な名称で呼ばれた。
白銀の王、赤の王、そして青の王。
三人の王権者により、緑のクラン対策を主な目的とした三王同盟が会議によって締結された。
白銀のクランについてはそのクランズマンが二人しかいないため、王同士の関わりについてはまた別として、現場においてさしたる影響はない。
この同盟がセプター4の隊員を驚愕させたのは、青のクランが宿敵である赤のクランと共闘することになったという衝撃的な事実だった。


「……吠舞羅と共闘、ですか」

秋山以下特務隊の全員が集められた会議室で、ナマエから説明を受けた面々はそれぞれに程度の差はあれど皆驚いた。
青のクランと赤のクランは、それこそ先代の頃から続く犬猿の仲なのだ。
それぞれの持つ力が秩序と破壊という真逆の性質であるのだから、無理からぬことだろう。
宗像礼司と周防尊の代になっても、やはりその関係が良好になることはなかった。
街で遭遇すれば良くて火花の散る睨み合い、最悪力と力のぶつかり合い。
誰も相手に対して個人的な恨みつらみは持ち合わせていないのだが、セプター4はその職務ゆえに吠舞羅のメンバーによるいざこざを看過出来ず、吠舞羅は吠舞羅でセプター4に縄張りを荒らされることに反発した。
その延長線上に、学園島事件があったわけだ。
事件後、吠舞羅が事実上解散し、しばらく両者の間に対立はなかった。
相手が存在しないのだから、軋轢の生まれようがない。
しかし二ヶ月前、赤のクランに新しい王が誕生したことで、セプター4は再び宿敵と相見えることとなった。
幸いと言うべきなのか、新たな赤の王はまだ年端もいかぬ少女で、無論王の力は絶大だろうが、好戦的だった先代に比べて温厚なようだ。
クランズマン同士の小競り合いは稀にあれど、これまで、王同士が直属の臣下を引き連れて大々的な戦闘を勃発させるような事態にはなっていなかった。
そういった意味で、タイミングは悪くないのかもしれない。
今は互いに、jungleという共通した敵もいる。
個々で対抗するくらいなら手を組んだ方が効率的だという考え方は、何も間違っていなかった。
しかし、長年に渡って刷り込まれてきた宿敵と手を取り合うという構図は、理論上正しかろうとなかなかに想像しづらいものがあるのもまた事実。

「それ、上手くいきますかね……」

不安が飛び出すのも無理はなかった。
その反応は、ナマエの予想通りだったのだろう。
ナマエは手に持っていた書類を長テーブルに投げ出し、わざとらしく肩を竦めた。

「ま、伏見さんは盛大に舌打ちしたね」

不在の上官を引き合いに出した軽口に、道明寺と日高が笑う。
場の空気がたちまちに弛緩した。

「これまでのことを思い返すと、まあ無理があるよねえ」

過去、吠舞羅と衝突したことは多々あれど、協力し合ったことなど殆どない。
一昨日、あからさまな挑発に乗る形で鎮目町のビルでjungleの下位ランカーを相手にした際は一応共闘したことになるのかもしれないが、ただ単に敵が同じだったと言うだけで実際は完全に個々の戦闘だった。
遡ってみても、唯一共闘に該当するのは、白あん煮込み豆腐というこれまた斬新な名前の馬を両クランで追い掛けたことくらいだろうか。
宗像が王になってから三年、その間にたったのこれだけしか事例が見つからないのだ。
なかなかにハードルの高い挑戦である。

「思うところはまあ、色々あっていい。君らはみんな優秀で、そこら辺の少年に手を借りるのは癪かもしれないし、戦い方も考え方も全然違って、もしかしたら余計な手間が増えるだけかもしれない」

会議が始まった時からずっと寛容的な態度を貫いていたナマエが、ここで不意に何とも悪どい笑みを浮かべた。

「でもほら、何とかと鋏は使いようってね、言葉があるくらいだから。要は、上手く利用してくれればそれでいいってことなんだよ」

その場でいち早くナマエの言わんとすることを理解した秋山は、つい笑い出したくなる。
相変わらず人が悪いと、喉の奥で呟いた。

「あちらさんには、好き勝手に暴れてもらう。こっちはその枠だけ用意して、後は高みの見物。で、一通り終わったら後始末。ね、随分楽になりそうでしょ」

ナマエがわざと誇張した表現で、隊員たちの士気を上げようとしていることは間違いない。
しかしその作戦は功を奏し、皆が一様に納得の声を上げた。

「吠舞羅は裏ルートにも精通してるから、その辺も上手く利用すればこっちの負担は確実に減ると思う。みんな、これでようやく人間らしい生活が出来そうだよ」

つくづく、話の持っていき方が上手い人だと秋山は感心する。
最後の台詞など拍手で迎えられたのだから、議題の難しさを考えればナマエの演説は大成功だった。

「この後吠舞羅の参謀が来て、そこで詳しい警備シフトなんかは決まると思う。上手いこと話が進むように副長に入れ知恵しておくから、何か意見があればそれまでに持って来て。以上、解散」

すっかり隊員たちをその気にさせたナマエが、書類を纏めて部屋を出て行く。
立つ鳥跡を濁さず、なんて少しずれた所感を抱きながら、秋山も椅子から立ち上がった。

「意外と上手くいきそうじゃね?」
「そうだね。そんな気がしてきたよ」

全くもってナマエの思惑通りである。
背後で交わされる会話に苦笑を零しながら、秋山は賑やかになった会議室を後にした。

随分とわざとらしい手段で以て皆に納得を促したナマエだが、実際虚言は一つも含まれていない。
事実、オブラートに包みはしたもののナマエが提示した通りの作戦が淡島から草薙へと伝えられ、それは何の反発も受けることなく呑まれたのだ。
理に適った策だったというわけである。
そうして、セプター4と吠舞羅による前代未聞の共同戦線が張られた。



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