ただ前へ進む為に[2]「…どうしてそんなことを?」
バーニィをここまで追い詰めたのは、一体何なのか。
「…今日、昼間に外で会った男の子に、言われたんです」
ぽつり、ぽつりとバーニィは話し始めた。
「その子は、たぶんまだ10歳くらいでした」
俯いて、少し肩を震わせて。
「その子に言われたんです。お前は、兄を助けてくれなかった。お前のせいで、兄は…死んだんだと」
たぶん、先日の火事の被害者だろうと、バーニィは言った。
その言葉に私は、今だ記憶に新しい事件を反芻する。
1週間前にショッピングセンターで起きた、NEXTの能力者による大規模火災。
犯人こそ逮捕できたものの、死者が何人か出てしまっていた。
きっと、その子の兄は火災に巻き込まれて亡くなってしまったのだろう。
「なにがヒーローだと、そう言われました」
バーニィは、掠れた声を絞り出して。
その後、子どもは母親らしき女性が泣きながら連れて帰ったと話してくれた。
「…そう、だったの」
胸が、鷲掴みにされたみたいに痛んだ。
でもバーニィは、もっと痛かったのだろう。
人を大切にする、責任感の強い、とても優しくて傷つきやすい子だから。
その罵りを、真っ正面から受け止めて。
何も言わずに、堪えたのだろう。
こんな言い方をしてはいけないと分かってはいるが、あれは仕方なかった。
ヒーローたちが現場に着く前に、すでに被害は出ていたのだから。
救いようがなかったのだ。
彼らは、精一杯を尽くしてくれた。
もちろん、大切な家族を失った幼い子どもに理解しろとは到底言えないし。
私にそんな資格はない。
だが、どうにもできないことだったのだ。
今、目の前で傷つき悩む彼に、何と声を掛ければ良いのだろうか。
私は考える。
貴方のせいじゃないのだと、慰めるべきなのか。
つらかったねと、同情するべきか。
だが、そのどちらをも私は選ばなかった。
そうではないと、思ったから。
「…戦って、バーナビー」
ゆるりと手を伸ばし、顔を上げさせると眼鏡を外して。
翡翠の瞳を、真っ正面から見つめた。
「貴方が信じる、正義の為に。
守りたいものの為に、最後まで戦って。
その為の剣は、私があげるから。
ヒーローで、あり続けて」
そう言って、目の前の身体を抱きしめた。
彼の頭を、両腕で包み込んで。
「そして疲れたら、いつだってここに帰っておいで。
私はここで、ずっと貴方を待っているから」
柔らかな金の髪を優しく撫でて、口づけを落とす。
「…は、い…っ」
嗚咽に紛れたバーニィの声を、私は静かに聞いていた。
この、心優しい青年が。
どうか、幸せであるように。
少しでも傷の少ない人生を、送ることが出来るように。
彼を癒せる存在であるために。
ずっと、ずっと隣りにいて。
いつだって笑っていようと。
そう、思った。
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