還る場所[1]30年に1度の珍しい流星群が見られるらしい。
と、巷で噂されるようになったのは先月頃の話だった。
正直、僕はあまり興味がなかった。
だから虎徹さんが楽しみだと騒いでいても、気にしなかった。
だけどナマエが、先日不意に見てみたいと言ったから。
僕はすぐさま、その流星群についてありとあらゆる情報を調べた。
何時に、どこで見られるのか。
少し肌寒くなってきたが、やっぱり屋外で見るのがいいのだろう。
そして今夜、僕はナマエと公園のベンチに並んで腰掛け、夜空を見上げている。
途中で買った缶コーヒーで、暖を取りながら。
銀色の細い線を一瞬だけ描いては消えていく星たちを、ただ眺めた。
「すごい…きれい」
そう呟いたナマエの横顔を見つめる。
その表情の方がよっぽど綺麗だと思ったが、言葉にはしなかった。
「なんだか不思議な光景だよね」
そう言って顔を僕の方に向けたナマエの表情は嬉しそうで。
「ええ、そうですね」
僕も素直に、この景色が綺麗だと思った。
初めて話を聞いた時、さほど関心はなかったが。
今は、こうして見ることができて良かったと思う。
ナマエが好きなものを、一緒に共有したい。
同じものを見て、同じ経験をして。
そうやって、2人の時間を重ね合わせていきたい。
「こんなにたくさんあるんだから、1つくらいは願い事叶うかな?」
流れ星に3回願い事を言うと叶う、というあの迷信のことだろう。
「さあ、どうなんでしょう」
信じたことは、もちろんない。
「うわ、現実的ー」
非難するように、ナマエが唇を尖らせた。
そういう子どもっぽい仕種が、とても好きだ。
彼女は仲間内で、大人のいい女という印象を周りに与えている。
事実、そうなのだけれども。
僕にだけ見せる、幼い仕種だったり素直な感情表現だったり。
そういった姿を晒すことを当たり前としてくれている、そのことが嬉しかった。
「いいんですよ。貴女の願いは俺が叶えるんですから」
願うこと、望むこと。
なんだってしてあげたいと、そう思うから。
「ほら、流れ星に何をお願いするつもりだったんですか?」
ぜんぶぜんぶ、叶えてあげよう。
「…バニーちゃんと、ずっと一緒にいれますようにって」
照れたように俯いて。
小さく呟かれた言葉に、思わず笑みが零れた。
「バニーちゃんじゃなくて、ちゃんと呼んで下さいよ」
もちろん、それが照れ隠しだとは分かっているけれど。
つい、困らせたくなってしまう。
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