ブラジャーとショーツと貴女[2]
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女性の下着云々ということを考慮せず単純に答えるならば、秋山の好きな色は青だ。
といっても、さほど色に対して拘りがあるわけではない。
目に眩しい派手な色はあまり好まないが、かといって特別嫌いな色があるわけでもない。
ただ、例えば好きな色を選んでいい、と言われた場合、無難に青と答えることが多かった。
しかし、それがナマエの身につける下着の色となると、出来れば青は避けてほしい。
青はセプター4の色、つまり宗像礼司の色だ。
青の王のクランズマンであることに誇りを抱く秋山は、このシンボルとも言うべき色を神聖なものだと認識しているが、だからといって恋人に他の男を連想させるような下着を身につけてほしいとは思えない。
秋山の好みというよりも、どんな色の下着をつけたナマエを見てみたいか、ということがポイントなのだろう。

「そう、ですね……」

店内には色とりどりの下着が並んでいる。
きっと肌の白いナマエにはどの色でも似合うのだろう。
薄いピンクや水色だと、可愛らしい印象になりそうだ。
対して、先ほどナマエが見せてくれたワインレッドや紫などだと、セクシーな雰囲気になるのだろうか。
秋山は目に付く色を一つひとつ脳内でナマエに当てはめ、想像を膨らませた。

「……その、色がいいです、」

やがて、秋山は恐る恐る一つのショーツを指差す。
微かに震えた人差し指の示す先を辿ったナマエが、へえ、と口角を上げた。
そこには、先ほどナマエが手に取ったワインレッドよりも更に深い赤色を足した、ガーネットに近い色がある。

「フェミニンな方向に行くかと思ったけど、意外だね」

ナマエがひょいとショーツを取り上げ、反対の手で揃いのブラジャーも掲げた。
縁に同色のレースが配われた、シンプルなデザイン。
しかし、その色は圧倒的な存在感があった。

「見る?」
「……えっ?」
「試着して来よっか?」
「え……、あ………」

秋山はその時初めて、ランジェリーショップにフィッティングルームがあることを知った。
言われてみれば、当然のことだろう。
女性の下着は、男のものより余程サイズが細かく分かれていると聞く。
自分の体型に合ったものを選ぶために、購入前の試着は必要なことなのだろう。
固まった秋山を置き去りに、ナマエは店員に声を掛けた。
そのまま店員に案内されて奥のフィッティングルームに消えたナマエを、秋山は呆然と見送る。
一人取り残された秋山は、いよいよ居た堪れなくなって両手で顔を覆った。
このタイミングでもし誰か他の客が店に入って来たら、秋山は間違いなく不審者に見えただろう。
恐らくほんの一、二分の待ち時間だったのだろうが、秋山にとっては羞恥心との激闘だった。

「お客様」

不意に女性の声で呼ばれ、秋山ははっと顔を上げる。
そこには、先ほどナマエを案内した女性店員の姿があった。

「どうぞ、お連れ様がお待ちですよ」

見事な微笑に誘導され、秋山はそろそろと後ろに続く。

「あちらです」

フィッティングルームへと続く曲がり角で、店員の右手が奥を示した。
秋山は反射的に小さく頭を下げ、一人で残りの距離を詰める。
右手と右足が同時に出たことさえ気付かなかった。
二つあるフィッティングルームのうち、一方のカーテンが閉められている。
秋山の足音に気付いたのか、カーテンが中から躊躇なく開けられた。

「こんな感じ。予想通り?」

視界の中央に現れた姿に、秋山はぴたりと足を止める。
感嘆の声すら出せなかった。

下は黒のスキニーパンツを穿いたまま、上半身だけが下着姿になっている。
胸元を覆うブラジャーは黒ではなく、先ほど秋山が指し示したガーネットの色。
白い肌、黒い髪とボトムス、そして深い赤色の下着。
えも言われぬ蠱惑的な姿に、秋山は視線を奪われた。

「一言くらいコメントがほしいんだけど?」

ぽかんと口を開けて見入っていた秋山は、慌てて口元を押さえる。
何と表現すればいいのか分からず、秋山は必死で言葉を探した。

「……えっと……その、………好き、です、」

恐らく、新しい下着を試着した恋人に掛ける言葉としては、不適切だっただろう。
何の評価にもなっていない。
しかし秋山の言いたかったことは伝わったようで、ナマエは薄っすらと笑った。

「ん、りょーかい」

目を細めたナマエが、一度秋山を見てからカーテンを閉める。
目の前から魅惑的な姿が消えてようやく、秋山は詰めていた息を吐き出した。

心臓に悪い。
俺には難易度が高すぎる。

秋山はもう一度顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。


その後ナマエは、更に三点ほど上下セットで下着を選んだ。
それらはいつも通り黒一色だった。
一つだけ赤の混じった下着を購入したナマエが、外で会計を待っていた秋山の元に歩いて来る。
その後ろから付き添ってきた店員が、出口でナマエに商品の入ったショップバッグを手渡した。
元々秋山は荷物持ちを申し出て同行していたはずなのだが、まさか女性ものの下着が入った紙袋を代わりに持てるはずもない。
それとなく謝れば、隣を歩くナマエが愉しげに笑った。


こうして、秋山は無事ランジェリーショップから帰還した。



寮に戻ってから、ナマエは購入した下着を早速身につけて見せてくれた。
例の、秋山が選んだ深みのある赤である。
ブラジャーとショーツを揃えて見ると、更に艶やかさが増した。
秋山は元からナマエに対して自制など効かないのに、さらに普段とは異なる姿を見せられては理性など残るはずもなく。
夕食もすっ飛ばして行為に及び、日付が変わった頃に空腹を訴えたナマエに制止されるまで、秋山は目一杯にナマエの妖艶な姿を堪能した。






ブラジャーとショーツと貴女
- いつか、僕の色に染めたいと -




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