同じ夜を何度も繰り返す[7]
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二人が情報処理室の扉を叩き開けると、中にはすでに特務隊のメンバーが集まっていた。
伏見とナマエが立ったまま、デスクに二つ並んだモニターを見下ろして言葉を交わしている。
そのデスクを取り囲むように、加茂以下特務隊の面々が揃っていた。

「すみません、遅くなりました」

秋山と弁財はその輪に加わり、モニターに視線を向ける。
デスクについた手を浮かせた伏見が振り返った。

「柴公園にストレインのグループが現れた。ガイヘン測定結果、コモンクラス六名。今のところ互いに異能自慢っつー馬鹿なことをやってるだけだが、いつ一般人に被害が出てもおかしくない」

伏見の概要説明に、秋山は右のモニターを見つめる。
公園に設置された監視カメラの映像だった。
なるほど、指先から水を出す者や常人とは思えない跳躍力を披露する者など、さながら大道芸のような様相を呈している。
見たところ、どのストレインも十代後半か二十代前半。
ヒートアップして喧嘩に発展し、周囲を巻き込む可能性は十分に考えられた。

「伏見さん。全員の確認取れました。六名中四名、前科持ちです」
「はあ?なんでそんな奴らが野放しになってんだ」
「前科といっても放火未遂や万引きなどの軽度なもので、異能の使用が認められなかったためセプター4は一切関知していません。全て警察の管轄です」
「チッ……めんどくせえ。すぐに熱くなって派手にやらかすのは目に見えてるな」

伏見が苛立たしげに指先でデスクを叩いた。
本日、宗像と淡島は揃って黄金の王の招聘により御柱タワーに赴いている。
総指揮を担うのは伏見の役目だった。

「榎本、布施。別件があった場合に備えて屯所に残れ。その他、特務は現場に急行。第一小隊から第三小隊まで出動命令。大至急、現場周辺一キロで警戒線を、」

伏見が矢継ぎ早に指示を出す、その言葉が終わる前に再び受理台がサイレンを鳴らした。

「おいっ、もう一件か?!」

スピーカーを振り仰いだ日高が呻く。
ナマエはすぐさま入電内容の確認に入った。

「次は立て篭りです。現場は古橋六丁目のコンビニ。犯人は一名、人質はなし。異能の暴走によりパニックを引き起こしたようです」
「ったく、どいつもこいつもめんどくせえな」

警察庁からの情報を読み上げたナマエの横で、伏見が再び舌を打つ。
そのまま目を伏せ、思案するように腕を組んだ。

「……ミョウジ、」
「はい」

沈黙は僅か五秒。

「柴公園の方は俺が指揮を執る。古橋の方はお前に任せた」
「分かりました」

瞼を持ち上げ、伏見は隊を二分すると宣言した。
両案件とも、時間が経てば状況は悪化するだろう。
伏見の的確な判断に、秋山らも頷いた。

「屯所に一部隊、俺の方に二部隊ほしい。そっちは一部隊で行けるか?」
「問題ありません。第三小隊を貸して下さい」

伏見とナマエが、部隊配置の検討に入る。
伏見は監視カメラの映像を見据え、ナマエはキーボードに指を走らせたまま声だけが行き交った。

「分かった、命令変更だ」

伏見が頷き、秋山らを振り返る。

「特務は、屯所に二人残す。残り六人、そっちは何人必要だ?」

伏見の問いに、ナマエが手を止めた。
同じように振り返ったナマエが、隊員をざっと見渡す。
その双眸が、思案するように細められた。

「……一人で構いません」

やがて、ナマエが静謐な声で答える。
その視線が、すっと秋山を射抜いた。

「秋山をこちらに」

え、と。
知らず、秋山の唇から小さな音が漏れる。
全員の視線が集まった。

「足りるんだな?」
「充分です」

伏見の短い問いに、ナマエが同様に短く返す。
ん、と伏見が了承の声を上げた。
デスクからタブレットを取り上げたナマエが、そのまま颯爽と扉に向かう。

「行くよ、秋山」

思わぬ事態に呆然と立ち尽くしていた秋山は、扉の手前で肩越しに振り返ったナマエに呼ばれ、我に返るとつんのめるようにその後を追い掛けた。

保管庫でサーベルを受け取り、足早に車両庫を目指す。
秋山は戸惑いを隠せないまま、小さな背中に随伴した。

室内には、八人全員が揃っていた。
伏見がナマエに選択権を与えた以上、誰を選出してもよかったはずだ。
第三小隊と共に出動するならば、同隊の元小隊長である加茂の方が適任だっただろう。
ナマエと加茂の間には、確固たる信頼関係も見て取れる。
それなのにどうして、ナマエは秋山を指名してくれたのか。

「……ミョウジさん、」

今日初めて、秋山はナマエの名を呼んだ。

「ん?」

振り返ることも歩みを止めることもなく、しかしきちんと続きを促すナマエの背に、秋山は意を決して疑問をぶつける。

「どうして、俺を?」

適任者は他にもいたはずだ。
わざわざ、喧嘩の真っ最中な相手を選んだのはどうしてだったのか。
秋山の問いに、ナマエは視線を向けることもなく答えた。

「私も前線に出る。だったら、私に合わせて一番上手く動いてくれるのは秋山でしょ」

事も無げに、さも当然とばかりに。
ひょい、と放り投げられた信頼を、秋山は呆気に取られて見つめる。

「なに、不服?」

その段になってようやく肩越しに秋山を振り返ったナマエは、しかし言葉とは裏腹に何の疑いもない目で秋山を見ていた。
胸臆が震える。
八人の中で最もナマエに合わせることが出来るのは秋山だと、ナマエ本人が認めてくれた。

「いえ……っ、いいえ、決して」

秋山の答えに、ナマエは微かに口角を上げると再び前を見据えて歩き出す。
秋山は、誇らしさと嬉しさを胸一杯に抱えてその背を追随した。








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