舌打ちの代償
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R-18

「ヒロイン×伏見」です、苦手な方は閲覧をお控え下さい。














「……ん、濃いね、溜まってた?」

口の中で弾けた熱を飲み下し、ナマエは抱いた感想を問いに混ぜた。
粘性のある液体が纏わり付く口内を、自らの舌でなぞる。

「………りじゃ、……けない………んで、」

はあ、はあ、と荒い息に紛れて答えが返ってきた。
しかし自ら問いかけたにも関わらず、舌の上に唾液を溜めて喉の奥に引っかかった熱の残滓を流すことに集中していたナマエは、伏見の回答を聞き取り損ねた。

「ごめん、なんて?」

ベッドの端に腰掛ける伏見を見上げて聞き返せば、元々赤く染まっていた頬がより一層その色を濃くする。
数拍の沈黙の後に「一人じゃイけないんですよっ!」とやけくそのように叫ばれ、なるほど繰り返させるには酷な台詞だったとナマエは苦笑した。
熱を握り込んでいた右手ではなく、胸を虐めていた左手を持ち上げ、伏見の頭をくしゃりと撫でる。
風呂上がり、いつものようにセットされていない髪は素直に乱れた。
伏見の唇が、子ども扱いをするなとばかりに不服の色を乗せて尖るけれども、その目は嬉しそうに蕩けている。
相変わらず、目で語る子だ。
ナマエは青灰色の瞳を覗き込み、小さく笑った。
それを、先の恥ずかしい告白を笑われたと受け取ったのだろう。
伏見の口から舌打ちが漏れる。

「……あっれ、伏見くーーん?」

それを聞き咎めたナマエは、ゆるりと目を細めた。
舌打ちは、無意識だったのだろう。
自らの行動に気付いた伏見が、しまったとばかりに息を呑む。
見開かれた目に、愉しそうに笑うナマエが映り込んだ。
伏見の腰が、ずるりと後ろに引かれる。
だが、射精の気怠さはまだ残っていたのだろう。
その動きは緩慢かつ微々たるもので、逃げる、という行為には程遠かった。

「約束、忘れたとは言わせないよ」

ベッドに片膝を乗り上げ、ナマエは伏見の耳元に囁きかける。
ひくん、と跳ねた肩が、忘れてはいないことを如実に物語っていた。

舌打ちをしたら、一回ごとに一回イかせる。

単純かつ、伏見にとっては酷な約束だ。
伏見の舌打ちは、最早本人ですらもコントロール出来ない癖のようなもの。
習慣になりつつあるそれを制御することは、かなり難しいのだろう。
注意しても注意しても直らないその悪癖に、淡島がついにナマエを頼ったのだ。
伏見のあの癖を直させろ、と。
そこでナマエが伏見に提案したのが、先の条件である。
約束を交わした最初の頃は、散々だった。
正直、舌打ちの数が多すぎて、行為に及ぶ時間が足りなかったほどだ。
当然だが、伏見の身体はひどく消耗した。
その段になってようやく伏見は、このままではまずいと認識したらしい。
それから徐々に、舌打ちの回数は減っていった。
ここ一週間ほどは、一度も聞かなかった。
しかし、癖が完全に直ったわけではなかったらしい。
いま、就寝前のこの時間にベッドを共にしているのは、伏見が今日の巡回中に盛大な舌打ちをかましたからである。
並んで歩いていたナマエは、背後にいた秋山に気付かれないように伏見に視線を送り、薄っすらと笑んで見せた。
そこで、今夜の予定が決定したというわけだ。

頭の位置を少しずらし、赤く膨れた胸の突起に舌を滑らせると、伏見は不自然なほどの悲鳴を上げて仰け反った。

「まっ、待って、いまイったばっか、……あっ、」

もちろん、ナマエがその主張を聞き入れてあげることはない。
硬く尖った先端を舌で包み込み、唾液を絡めた。
大きく舐めては小刻みに突き、唇で食んでは歯を立てる。

「……ひ、ああっ、や………っ、だめ……!」

艶のない髪を振り乱して悶える伏見をちらりと見上げながら、未だ唾液と先走りの絡んだ右手を上げてもう一方の突起を摘んだ。
腰の後ろで上体を支える伏見の腕が、小刻みに震え出す。
ナマエは舌先と指の腹で胸元を弄りながら、曲げた膝頭を伏見の股の間に押し付けた。
その途端、伏見の腕から力が抜け、背中がベッドに沈み込む。
それを追うようにしてベッドに乗り上げ、ナマエは伏見の上に覆い被さった。

「あ、ああ、あ……っ、ま、ひぃ……んっっ」

逃げ場をなくした伏見が、言葉にならない喘ぎ声だけを上げ続ける。
伏見の手に強く握り締められたシーツに、大きな皺が出来ていた。
執拗に胸だけを攻め続ければ、やがて伏見の腰が揺れ始める。
すでにすっかり大きく育った熱を太腿に押し付けられ、ナマエはわざと腰を上げた。

「……あ、や……、ナマエさ……んぅ……」

届かなくなった伏見が、刺激を求めて腰を突き上げてくる。
それを躱しながら尚も胸だけを弄っていると、ついに伏見が嫌々をするように首を振った。

「ナマエさ……っ、も、……そこばっか、り……やだ……ぁ、う、………っあ、あぁ……っ」

少し唇を離して下を見れば案の定、勃ち上がった屹立がその先端から涙を零して震えている。
ナマエが強く胸元に吸い付くと、伏見の腰が大きく跳ねた。

「や、も、……さわ、さわって……!」

上手く回らない舌で必死に訴えかけてくる伏見を上目に見上げ、視線だけで何を、と訊ねてやる。
伏見は一度唇を噛んだが、結局は快楽に負けたらしく高い悲鳴が漏れた。

「ひあっ、あ、……も、した、さわって……くださ……っ、あああっ」

喘ぎ声に混ざった伏見の精一杯が降ってくる。
ナマエは決して下品な言葉を言わせたいわけではないので、そこまでで良かった。
上体を起こして位置を変え、伏見の下半身に顔を埋める。
真っ赤になって震える熱の先端に口付け、焦らすことなくそのまま口の中に招き入れた。
根元まで深く咥え込めば、口内で熱が震える。

「あ、ひぅ、っ、う、……は、ああっ、」

奥まで馴染ませるように唾液を絡めてから、ゆっくりと頭を持ち上げ、ずるりと抜け出てくる熱を唇で締め付けた。
そのまま上下に頭を動かして扱き、その度に舌の位置を変えていく。
裏筋に這わせると、伏見の喘ぎ声が一層大きくなった。

「あああっっ、ナマエさ、だめ、あ、あんっ、やああ、だ、……っは、あ、」

何度も、何度も繰り返した行為だ。
ナマエは、伏見の弱いところを全て把握していた。
だから的確にポイントを押さえることも出来るし、逆に敢えて外すことも出来る。
右手を添えて何度か扱き、指先が濡れたところでその手を重くなった双袋に伸ばせば、伏見の怒張がこれ以上ないほど大きくなった。
それを感じて、ナマエはわざと熱の側面だけを舌先でなぞる。
そこではないと、知っていた。

「……や、やだ、ナマエさ……っ、そこじゃな、あっ、あぅ……ん、……そこ、ちがう、ん、……もっとぉ……っ」

欲しいところに欲しい刺激がこないのだ。
限界まで高められた挙句に焦らされ、伏見は上擦った声でナマエに強請る。

「イきた……っ、も、イきたいぃ……っ、ん、」

随分と早い段階から素直に請われ、どうやら相当切羽詰っているのだろうと察したナマエは、素直にその要望を聞き入れることにした。
何となく、今日は甘やかしたい気分だった。
再び熱を口の中いっぱいに頬張って何度かスライドさせ、伏見の好きな先端を弄ってやる。
左手を添えて裏筋を撫でれば、限界はあっという間に訪れた。

「ひ、い、イく……っ、イ、っちゃ、イっちゃう……っ!」

滅茶苦茶に喘ぎながら、伏見が今日二度目の白濁をナマエの喉に目掛けて放った。
到底二回目とは思えない量のそれを、ナマエは数回に分けて飲み干す。
顔を上げれば、伏見は荒い息を繰り返しながらぐったりとベッドに沈み込んでいた。
焦点の合わない双眸が、宙を彷徨っている。
ナマエはくすりと笑い、その唇に軽く口付けた。

「……ナマエ、さん……」

飛んでいた思考が戻って来たのか、伏見にぼんやりと名前を呼ばれる。
ん、と返事をすれば、その顔がふにゃりと緩く崩れた。

「なに、どうしたの」

珍しい笑みに首を傾げれば、伏見は何でもないと言う。
だが、その声音がひどく穏やかで、幸せそうで、ナマエは是非とも聞いてみたくなった。

「なあに。教えてよ」

べたつく手をどうせ洗うことになるシーツで拭ってから、伏見の頬を優しく撫でる。
その手に擦り寄ってくる伏見は、いつになく素直だった。

「……今日の、わざとですって言ったら、怒りますか」

ぽそり、と零される問い。
明確に言葉にされなかった部分を補おうと思考を巡らせている間に、伏見は続けた。

「巡回の時、舌打ちしたの。あれ、わざとやったんですよ」

さっきのは無意識でしたけど、と白状され、ナマエはぽかんと伏見を見下ろす。
わざとやった、ということは。
ナマエに聞かせるためだった、ということで。

「……なに、あれ、お誘いだったの?」

最初の問いに答えないまま質問で返せば、伏見がさっと視線を逸らした。
しかし、それが答えだろう。
散々イかされて、精魂尽き果て、ようやく癖をコントロール出来るようになって一週間。
お仕置きがなくなって、自分で慰めても射精に至らなくて、今度は別の意味で限界だったらしい。
事情を察したナマエは、くすりと喉を鳴らした。
伏見が唇を尖らせ、手近にあった枕に顔を埋めようとする。

「だーめ」

ナマエはその手から枕を奪い取り、真上から伏見の顔を覗き込んだ。
ばつが悪いのか恥ずかしいのか、視線が全く交わらない。
可愛いな、と思ったけれど、それを口にはしなかった。

「ねえ、今度からさ、そういう時はこう言ってよ。エッチがしたいです、って」

代わりに落とした言葉に、伏見は驚いたのだろう。
はっとしたように、見開かれた目がナマエを映す。
揺れる瞳を見下ろしながら、ナマエは微笑んだ。
こんな、一方的なものじゃなくていい。
一緒に気持ち良くなればいい。
そう言ったつもりだけれど、伝わっただろうか。
伏見の真っ赤になった目元を見る限り、伝わったのだろう。

「……は、い……」

ぎこちなく紡がれた返事に、ナマエは笑った。

「かーわいいなあ、」

先ほどは飲み込んだ感想が、思わず漏れる。
当然、男として言われて嬉しい言葉ではないだろう。
伏見がむっとしたように睨み上げてくる。
けれど、射精後独特の色気と、赤く染まった顔、瞳の奥はなんだかんだ蕩けたままで、やはり可愛く見えてしまう。

「ごめんごめん。でも、可愛いんだ」

そう言って、頬をくすぐった。
その時だった。
チッ、と漏れた微かな音。
恐らくは、怒りというよりも照れ隠しだったのだろうとは思うが。
だとしても、紛れもない舌打ちの音だった。

「……あーーあ、」

極めて残念そうな声を意識しながら、ひどく愉しそうに笑ってみせる。
真下にある伏見の顔が、一瞬で青褪めた。
一度目はわざとだったそうだ。
二度目は無意識だったようだけど、満更でもなかっただろう。
しかし三度目は、恐らく許容範囲外だ。

「ま、待って下さい!今のは別にそういうんじゃなくて、苛ついたとかじゃなくて、あの、」

うん、分かってるよ。

心の中で答えながら、ナマエはその可愛らしい唇を塞ぎ、そして右手をそっと伏見の胸元に滑らせた。






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