ここは天国ではないが地獄でもない



素直で真っ直ぐそうな子。
彼を見た最初の感想。珍しい白髪、くりくりとした綺麗な瞳。私より幾ばくか歳下であろうその子も私を見てきょとんとしていたから先にアクションを起こしたのは私だった。ふふっと笑いが零しながら右手を差し出した所で漸く彼もはっと我に返ったようで慌てて手を握り返してきた。大きくて骨ばっていて…また皆とは違う手の感触だ。

暫く社長からお暇を頂き、今日出社してきたら見知らぬ人がいるから少々驚いてしまったけれどこの事務所にいるという事は誰かのスカウトか社長直々に勧誘されたかどちらかだろう。どちらにせよ、新しい仲間なのだから程よく仲良くしなくっちゃ。あんまり近付きすぎると迷惑を掛けてしまうかもしれないから距離を詰めすぎないように。

私が傍に居られるのはただ1人だけ。恋人同士とかそういう意味ではなく、先読みして私の不幸を"避けられる"人、という意味だ。

「みょうじなまえです。ここの雑用係やってます。よろしく。何かあれば遠慮なく言ってくださいね」

「あ、えっと…中島敦、です。よろしくお願いします」

見たところ人に慣れていないのか女性に慣れていないのか分からないがどこかたどたどしい様子でお辞儀をする。まぁまだ初対面だしこういう反応が普通なのかな。私の周りがちょっと違うだけで。脳裏に浮かんだ癖っ毛の包帯男が浮かぶ。いや、あの人は普通という方に当て嵌めてはいけない気がする。心の中で苦笑を漏らしつつ握った手を離し、一体どういう経緯で彼を社員にしたのか話を聞こうと辺りを見渡すと1人只管パソコンに向かう後ろ姿が見えた。

「国木田さーん」

「何だ」

説明者として申し分ないその人に声を掛けると、パソコンと睨めっこしていた顔が此方を向く。

「私がいない間に新しい社員の方が増えたようで…」

「ああ、ちょうど敦の入社試験があったからな。お前には敢えて休みを与えて貰った。不幸で試験がめちゃくちゃになったら敵わんからな。」

「…不幸?」

ああ、なるほど。と心の中で呟く。仕方の無い事だ。私は戦闘員ではなく雑用係の上、厄介な体質なのでこうして会社内の事など後々連絡が来るのも珍しくないのだ。中島君が首を傾げるのを見て、説明して良いかと目線だけで問われる。ここで働く以上知らせない訳にはいかないだろう

「…中島君、あのね」

「あ、はい…何ですか?」

「いや、まぁ…実際に体験した方が早いか。ねぇ国木田さん」

「まぁ、それは一理あるな」

不幸と言っても体質だし言葉よりも体験した方が分かると思う。可哀想だけど。

「案ずるな敦…これから嫌でも分かる」

「やだなぁ国木田さん。そんなに言われたら悲しいですよ…私だって好きでこんな…」

ガシャン、と言いかけた言葉を遮ったのは硝子の割れる音。それと同時に中島くんの後頭部に盛大にぶつかったそれ。

「言ったそばから蛍光灯が独りでに落ちてくるなんて。嵌め方が悪かったのかも」

「悪かったとしても今このタイミングで落ちてこないと思うんですが!?」

「今日も絶好調だな」

中島君は痛そうに頭を抱えて涙目になっている。そんな彼を見ながらごめんね、と謝ったけれど彼は怒りをどこにぶつけていいのやら分からない様子で地団駄を踏んでいた。
ちょっと子供っぽいかも。あの人と少し似てる。思わず笑ってしまった所で中島くんに笑い事じゃないですと怒られた。





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