真っ暗闇と星のようなもの



乱歩さんは普段警察が依頼してきた事件を解決まで導く名探偵であり、どんな難事件であろうとも彼の鋭い観察眼にかかれば数十分もあれば解いてしまう。然し顔馴染みの方でなければ彼の言動は些か相手の癪に障るような言い方で、度々言い合いになってしまうのが惜しい所だ。その仲を取り持つのが同行者である私の仕事なんだけれど。私は彼のサポートはするが、事件には全く関与しない。関与しても何の役にも立たない事は自覚済だし現場に残った証拠類や遺留品等を無くしたり壊したりしてしまったらそれこそ役立たずを通り越して最悪同行禁止になってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
私がいつも同行して何をするかと言えば、電車の切符を買うだとか電車内で乱歩さんの相手をするだとか、傍から見れば私でなくてもいい内容だけれど、乱歩さん本人からの希望で私が別の急ぎの仕事や休み出ない限りは同行を頼まれている。まぁ、私を制御する為には常に傍にいた方が何かと都合が良いから乱歩さんは私を同行者に選んでくださったのだろう。乱歩さんは今まで出会った人の中でも最も合理的な人だ、他意はきっと無い。

「なまえ!」

いけない、少しぼんやりしていた。乱歩さんの顔が私の目の前にあって声をあげそうになった。きっと何度呼んでも返事が無かったのだろう、少し不機嫌な表情で私の目を覗き見る。

「なまえってば。もう終わったよ」

「えっ、あ、はい。すいません…ってもう終わったんですか?到着してまだ数分…」

「僕の異能力を使うまでも無い事件だったよ。あれだけ証拠が現場に残っているというのに。直ぐに犯人が分からないなんて全く僕がいないとダメだなぁ」

乱歩さんが持つ異能力『超推理』。現場を見ただけで事件の真相が分かり、またその場にいなくても僅かな手掛かりさえあれば瞬時に謎を解決できるという能力…だと乱歩さん自身は思っているようだが、本当は異能力ではなく彼の頭脳と観察眼が優れているだけで異能力者ではないと社長直々にお話を聞いている。それでも異能力者が集う武装探偵社の社員から尊敬されているのは逆に凄い事だ。

「お疲れ様です。少し早めに終わりましたね」

「喫茶店にでも寄ってから帰ろうか」

ぐぅ、と唸るように私の腹の虫が鳴く。今朝は少し寝坊してしまって朝食をとり忘れてしまったのだ。今、このタイミングで鳴らなくてもいいのに…。見透かしていたように乱歩さんが笑ってますます恥ずかしくなる。

「なまえが朝食を摂らないなんて珍しいね。寝坊でもしたのかい?」

本当に何でもお見通しらしい。遠慮がちにこくりと頷くと乱歩さんは私の手を掴み歩き出す。引っ張られるように歩き出した私。初めて乱歩さんの手に触れて緊張が一気に最高潮まで達した私は只管この煩い心臓をどうにかしなきゃと必死だった。男性に対して免疫が無いわけではないし、手と手が触れ合った位で狼狽える程乙女心等持ち合わせていないはずなのに。乱歩さんはいつも子供っぽくて、自由奔放で…でも繋がれた大きな手の平は男性らしさを感じさせる。

「近くに何かあったっけ?」

「あっ、し、調べます!」

携帯を取り出して調べると、ちょうど近くにスイーツを取り扱う有名なお店があるようだ。地図を見ながら案内し、店に辿り着いた頃には空腹を忘れてしまっていた。





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