弱虫と砂糖菓子
「一体どういう事なんですか?」
まだ痛むであろう後頭部を撫でる新入社員…もとい敦君は涙目で私に訴えた。実際体験して貰った方が良いとは思ったものの矢張り現状が理解出来ないようだ。
「えっと…うーん。説明し難いんだけれど…私ね、産まれた時からずっとこんな感じで」
「こんな感じ?」
「不幸体質…って言うのかな?」
「究極のな。厄介なのがその不幸が誰に降りかかるのか本人にも分からない、という点だ」
国木田さんが溜息をつきながら眼鏡を押し上げる。へへ、と苦笑いを零せばキッと睨まれてしまった。そんな怖い顔しないでくださいよ。
「好きでこうなってる訳じゃ…」
「それは百も承知だ!生まれ持った体質という事もな!然しそれならば解決策も見つけられん。だから厄介なのだ」
「でも…それだったら、何故彼女は此処に?」
「…1人だけ、究極とも言えるなまえの体質を読める人物がいる。その不幸を利用して幾度となく難事件を解決してきた。それに…あの人の相手はなまえが適任なんだ。」
「その人って…」
その時ばたんと扉が勢い良く開き、音に吃驚する敦くんが振り向くと同時に事務所内に響き渡る少し幼げが残る声。
「やぁやぁおはよう。」
「おはよう御座います、乱歩さん」
「おはようございます」
寝癖が残る髪の毛。手にはお菓子が入っているであろう紙袋がひとつ。それを受け取って彼の机まで運び、給湯室でお茶の準備。国木田さんと敦くんの分も。出来上がって持っていくと敦くんが乱歩さんに何やら尋ねているようだった。敦くんと乱歩さんは顔見知りなようで、敦くんの表情に緊張や不安等は浮かんでいない。
「みょうじさんの不幸体質って本当なんですか?」
「ん?本当だよ。」
「で、でもそれって単なる偶然じゃ…」
「偶然?まー君もこの先嫌でも分かるようになるさ」
どうやら私の不幸体質を偶然ではないかと思っているようだ。まぁ、その反応は妥当だと思う。私だって敦くんの立場ならそう信じられるものではない。然し…今や私の不幸体質は武装探偵社のお墨付きである。数ヶ月後、憔悴している敦くんの姿が想像出来るなぁ…他人事ではないし出来るだけ彼等に迷惑は掛けたくないから距離を保つようにしてるけれど、
「まぁなまえの不幸体質は僕が制御出来てるんだし何も問題無いだろう?」
自分に不幸が降りかからなければそれで良し、とでも言うような。敦くんも苦い顔をしていたけれど最終的には納得したようで国木田くんに肩を叩かれていた。心の中で謝りつつ乱歩さんにお茶を出す。
「あ、そうだ。なまえ」
「はい、何でしょう」
「依頼が入った。同行者は君に頼むよ」
スナック菓子を食べながら此方を見上げる乱歩さんに笑みを浮かべながらはい、と頷いた。
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