願っても叶わない呼吸




※財膳絵馬<終幕ルート1>後


絵馬くんから手作りのぬいぐるみが届いてからもう3ヶ月を経とうとしていた。私は未だに彼の行方を知らないでいる。彼の家に行けば真相は分かる筈なのに。否、分かっているから怖いんだ。彼は消えたがっていた。最初から全て無かった事にしたいと言っていた。自分ではなく、本来いるべきだった自分の代わりの誰かの為に嘆いていた。卒業式の日に見せたあの本物の笑顔を見て彼の決意は固く揺るがないものなのだと瞬時に理解してしまっていた。私はあの時彼の意志を尊重する事を選んだけれど、それが彼にとって良かったのか分からない。私にとっては…
でも生きていて欲しいなんてやっぱり言えなかったんだ。話して笑って照れて、呼吸をして。ちゃんと生きてる絵馬くんはとても苦しそうで悲しそうだったから。そんな姿を見て、私の勝手な願いを彼に聞いてもらおうだなんてそんな酷い事出来るものか。そう思っていたのに、私は今後悔という気持ちに押しつぶされそうでいる。どうしたら良かったんだろう。私と彼にとって最善の選択は何だったんだろう。今更考えたって意味の無い事ばかりが頭に浮かぶ。

「…ねぇ、君は今何処にいるの?」

手の中のぬいぐるみに問いかける。答えなんて返ってこない。返ってくるはずがない。
君が最期まで姿を見せないから、諦めがつかないんだよ。困っちゃうよ。君が死んだ姿を見ればきっと私も、絵馬くんのお母さんもお父さんも前に進めるのに。ずっと希望を持ち続けたまま生きていかなきゃいけないんだよ。そんなに狡い方法でいなくならないでよ。ぬいぐるみをぎゅっと抱き締める。懐かしい君の匂いももう忘れてしまった。何度も君の後を追おうと思ったけれど、死のうとする度絵馬くんの笑顔が脳裏に浮かんで踏み切れない。

財膳絵馬は私に呪いを掛けていったのだ。
死ぬまで解ける事の無い呪いを。

「うっ…ばか……」

初めて毒づいた言葉は誰に聞かれることも無く、静寂の中に消えていった。





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