少しずつ、少しずつ。意識が浮上する感覚。
目を開けるにはまだ瞼も身体も重く再び意識を手放してしまいそうになるが、身じろいだ瞬間腕に激痛が走り思わず呻き声が口から零れた。

「痛っ…!」

「あっ!大丈夫…かな」

ゆっくり瞼を開く。見慣れない天井。聞き慣れない声。視線を天井から横にずらすと、2人の少年が私を見下ろしているのが見えた。誰だろうか。黒髪を後ろで束ねた少年と、口元に傷痕の残る宍色の髪色の少年。2人とも私と同じ位の歳に見えるけれど、どうして年端もいかない少年が此処に…というか此処は一体何処だろうか。囲炉裏がぱちぱちと爆ぜるのを聴きながら格子窓から覗く月の光を見て、一気に記憶が蘇る。

…助かったのか、私は。私だけが。押し寄せる絶望感。堪えようとしても瞳からは涙が溢れ出て止まらない。思わずぎゅっと目を瞑った。あれは決して夢ではなかったのだと腕の痛みが証明している。

「泣くな」

ぴしゃり、と強く言い放たれた。ぼやける視界で声の主を見上げる。言葉を放ったのは宍色の髪をした少年だった。

「…どれだけ泣いても両親は返ってこない。」

「錆兎…!」

黒髪の少年が制すが、錆兎と呼ばれた少年はそれを意に介する事もなく、続けた。

「お前がすべき事は今みたいに泣く事じゃない。両親の後を追って死ぬ事でもない」

見透かされていた、後を追えば少なからずこの絶望から逃げられるという狡い考えを持っていた事を。分かっていた、両親は私が死ぬ事を望んでいないのも。でも、それなら私はこれからどう生きていけばいい?大切な人を奪われた悲しみを抱き続けるのか。自分の中で行き場のない感情が渦巻いて叫び出してしまいたかった。貴方に何が分かるんだと怒りをぶつけてしまいたかった。

「命を繋いでいくんだ。どんなに辛くても」

力強い、一切の迷いのない言葉。渦巻いていた感情が払拭されその言葉のみが私の心にすとんと落ちる。涙でぐしゃぐしゃになった顔で大きく頷く私を見て、彼は少しだけ口元を緩ませたのだった。


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