今日は明朝から悪天候で雨が降り始めていたが、幸い雨足は強くならず降ったり止んだりを繰り返していた。だがその所為で地面は泥濘、視界も不良。いつも通りの修行をこなすのは少々困難だと思ったがどんな状況でも鬼は待ってくれない。迎え撃てる程の技量を積まなければ最終選別は残れないだろう。然しながら、身体を冷やして風邪を引いても元も子もないという鱗滝さんのご指示でいつもの修行量の半分、そして各手合わせ一本ずつという内容に決まりいつもより少し厚着をして外に出た。此処に来た時より幾分伸びた髪の毛を後ろで邪魔にならないよう結いながら錆兎と義勇が手合わせしているのを横目に素振りを始める。

鱗滝さんに助けられ、此処に来て錆兎達と一緒に鬼殺隊を目指すようになってもう半年以上になる。この半年で私達は鬼を狩る為の呼吸、水の呼吸も会得し真剣を与えられ、今や木刀ではなく真剣同士で手合わせをしている。然しやってもやっても不安が残るものだ。いつしか錆兎が言っていた「努力はしてもし足りない」という言葉。それだけではなく他にも錆兎の発言にはハッとさせられる。同い年なのにどこか大人びている不思議な少年。きっと、こんな境遇じゃなければ錆兎とて年頃の少年と変わらず恋をし何れ結ばれて普通の人生を歩んでいた筈だ。過ぎてしまった時間は戻らないのだからこんな事を考えても仕方がないけど。雨で頬に張り付いた髪を拭うと義勇に名前を呼ばれる。どうやら勝負はついたようだった。

「雨、止んできたね」

空を見上げると黒い雲の隙間から太陽の光が射し込んでいた。草木に乗った雨の雫がキラキラと反射するのが眩しくて目を細める。

「一度戻って手拭いを持ってくるから。待ってて」

「ありがとう」

義勇の濡れた前髪から雫が頬を伝った。羽織の袖で拭うけれど、びしょ濡れになったそれでは意味が無いのに気付いて困ったように首を傾げて笑う。
義勇は同い年にしては子供っぽくて弟みたいな存在だ。少し天然な所が義勇の魅力でもあり、実は密かに私の癒しになっているという事は内緒である。義勇はくるりと背を向けて走っていった。転ばなきゃいいけど。

「…義勇が戻ってくるまで少し待つか」

「あ、うん」

心配でずっと義勇の背中を見送っていたが錆兎に声を掛けられ振り返る。ぱちりと錆兎と目が合うがすぐに逸らされてしまった。今までそんな拒否されるような仕草は一度もされたことが無い為直ぐに異変には気付いたが…理由はさっぱりだ。先程までいつもと何ら変わり無い様子だったのに、何だというのだ。少し怒っているような、拗ねているような…大人びていると思ったら同い年相応の表情もするんだなぁとぼんやり見つめていると錆兎がぽつりと呟く。

「…お前は義勇の事をどう思っている?」

「はぁ?」

本当に何だと言うのか。藪から棒に。錆兎が問うているのはどういう意味での話か分からない。家族として?人間として?今この流れでそれを聞く真意が分からない。

「普通に好きだけど」

「…家族としてか?」

「そうだよ。まぁ義勇は…弟みたいな感じかなぁ。私は一人っ子だったから正直弟っていう言い方で合ってるのか分かんないけど…」

「俺の事は?」

はっきりと。先程より凛とした声で問われた。冗談等少しも滲ませない声色に少し驚く。錆兎と目が合って、今度は逸らされなかった。今度は私の方が目を逸らしてしまう。

足音が近付いて、錆兎の少し冷えた指先が私の頬を撫でるから思わずびくりと跳ねた肩。錆兎の髪から滴る雫が私の瞼に落ちる。宍色の細くて綺麗な髪の間から覗く瞳、それを縁取る長い睫毛。あと少しで唇が触れ合いそうな距離で錆兎が息を飲んだのが分かる。

「さび、」

名前を呼ぶ前に暖かい唇で塞がれる。
彼が一瞬何かを迷うような表情を浮かべた事に私は気付けなかった。


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