錆兎と義勇の性格は正反対と言っていい程だったが、不思議と仲が良かった。正義感が強く、己の決めた事は必ず貫く精神力の強さと決断力を持つ錆兎に対して義勇は少し気が弱く、しかし人の痛みが分かる誰より優しい性格。少々空気の読めない言動はあるけれど悪意が無いので目を瞑る他ないが。2人は最初から私に対して壁を作らず友人として修行仲間として良く接してくれて、そんな2人に心を開くまでにそうそう時間は掛からなかった。私にとって錆兎も義勇も鱗滝さんも。本当の家族と大差なく大切に思っている。だから絶対に、3人で最終選別を突破して鱗滝さんの元に帰ると私は心中で密かに誓っていた。


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厳しい修行で出来た傷を手当してくれるのは決まって義勇だった。錆兎は骨折等しないように絶妙に力を加減しているお陰で今まで大きな怪我もなくやってきたが、木刀とはいえ当たるだけで痛いのだ。痣だって出来る。

「今日も全然ダメだった…錆兎に一発も入れられないどころか、服にさえ掠らない…どんな反射神経してんの、ほんとに」

「あはは、錆兎は凄いよね。僕もまだ錆兎には敵わないんだよ。今まで一緒に…ずっと同じ時間修行してきたのに」

義勇は私の赤くなった腕に薬草を塗ってその上に包帯を巻きながら言った。錆兎は凄い。僕なんかと違って。そんな表情をしているのは一目瞭然だった。確かに強さで言えば錆兎の方が優れているだろう。だけどそれが全てじゃない。私はむっとしながらため息をつく。

「そう言ってるけど義勇だって凄いよ。義勇と勝負しても、全然勝てないし」

「そう、かな」

はは、と情けない表情で笑う義勇の頬を抓る。義勇は自分を卑下する言葉をよく使う。錆兎も私も、義勇は自分で思ってるよりも凄いんだからもっと自信持てって言ってるのに。

「ひたい!」

「そんな事言ってる間に、あっという間に義勇の事追い越しちゃうんだからね!」

「それは…」

錆兎達より強くはなれないかもしれないけど、それでも。守ることは出来るから。私は私の大切な人達を守れる強さがあれば良い。全部守り切れなくていい、錆兎や義勇…鱗滝さん。目の前にいる人達を私は守りたい。こんな事言ってしまったら、鬼殺隊失格かもしれないけど…。だけど私はもうあんな思いは二度としたくない。錆兎に喝を入れられたあの夜、心に決めたんだ。気付かされたんだ、私のすべき事を。情けない話だけれど

「…よし、手当て出来たよ」

「ありがとう」

ぐーとぱーを繰り返して指が正常に動くこと、握力がちゃんとあることを確認して木刀を握りしめる。

「じゃあもう1本お願いしようかな」

「えっ」

「何?降参?」

「っ!」

油断していたであろう義勇の目の先に切っ先を向ける。私が怪我したからって休憩なんかしてる暇ないんだからね、なんて言うと義勇が苦笑を漏らした。義勇のその困ったような笑い方がちょっと可愛くて好きだったりする。本人には絶対言わないけど。


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