そこに1人、地下にやってくる女がいた。
その女、芥川の部下である樋口。
「中原幹部、ここにいらっしゃいましたか」
「…あ?」
「そこの女は芥川先輩が連れてきた女じゃないですか!なんで解放してるんですか」
「チッ。芥川のやつ余計なことしやがって。樋口、こいつは解放する、俺の命令だとでも伝えておけ。太宰のやつは勝手にしやがれ」
「えーーー、中也ひどい〜」
「心にもないこと言いやがって」
太宰に向かって一言告げると、中原は私の方に向き直る。自分の帽子を取るとそれをそのまま私の頭に被せる。帽子のツバをグッと下げられたことで彼の顔が見えなくなったけど、おでこのあたりに何かが当たる感触がした。
「ひゅー、やるね中也」
「な!?な!どういうことですか!幹部」
太宰と樋口の反応は正反対で、ニヤニヤこちらを見やる太宰と顔を真っ赤にし叫んでる樋口。
私はというと何が起こったのかわからないから首を傾げる。そんな私を見て、帰るぞ、と微笑み手を引かれる。
「あ、あの!?どこに行くんですか?」
「どこって、帰るんだよ。忘れたことは忘れたままでいい。無理に思い出そうとしなくていい。ただお前は笑って幸せでいてくれたらいい」
「…あのもしかして私大事なこと忘れちゃってますか?中原さんを見るとなんだが懐かしい気分になるんです。」
私の問いに返答はない。そのまま引かれるまま、長い廊下を歩いてる。幾分か彼の歩みは速く置いてかれないように小走りになる。
「ねぇ、チュウヤ。」
「…エリス嬢がいるってことは全てお見通しってことですか」
「リンタロウから伝言よ。チュウヤは、ちゃーんとやくそくをまもっているから今回はお咎めなしですって。」
「…ありがとうございます」
「ねぇ、あなた。これ忘れ物よ。リンタロウが次来たら渡してあげようと思ってたんだって」
「………え?私ですか?」.
そう言いながら、赤いドレスを着た少女は私に古びた手帳を手渡してくる。
申し訳ないが手帳にも、リンタロウという人物にも思い当たる事がない。そのため、受け取らずにいると、「はーやーくー」と言われるものだから、反射で受け取ってしまった。
「エリス嬢それは」
「チュウヤだって、おもいだしてほしいって思ってるんでしょ」
「…………」
「もー、英李、今度一緒に遊びましょ!話したいことたくさんあるのよ」
「は、はぁ」
もう行こう、手を引かれて、軽く微笑みながら会釈しておく。なんであの子は自己紹介していないのに私の名前知ってるんだろう。
「よし。ここまで来れば大丈夫だろ」
「あ、探偵社の前…」
気がつくと探偵社の前に着いていて、手が離れる。
慌てて帽子を自分から取り、中原の頭に返す。
「お、ありがとうな」
軽く屈んでされるがままになる中原に、お礼を言う。
「聞きたいことはたくさんあると思うけど、ちゃんといつか話すからそれまで待っててくれるか?」
「は、はい」
「あと、それも無しな。敬語。」
「え!でも」
「同じ歳なのに、敬語もおかしいだろ」
「あ、そうなんだ…えと、うん、わかった」
中原は私が探偵社に入るまで見送ってくれて、私は何度も振り返って手を振る。それはエレベーターのドアが閉まるまで続いたのだった。
「あっ、太宰さん置いてきちゃった」
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