「 2 」

 森乃イビキと名乗るその大男は、見える皮膚ほぼすべてに傷跡ができている。彼はそれを自分の受けた拷問の痕だと説明した。だから、このまま吐かないなら、これ以上の傷ができるほどに痛めつけるぞ、と。
 彼曰く、『痛みは嘘をつかない』らしい。
 彼は裕也のヘラヘラした態度が気に食わないようで、裕也が癖でヘラリと笑ってしまうたびに、裕也の拘束を強めた。

 裕也は今、鋭利なワイヤーのようなもので、張り付けにされていた。
 ピアノ線のようなものが食いこみ、四肢や胴が、切り刻まれてゆく。

 痛みに脂汗を浮かべる裕也と同じように汗を垂らすイビキは、裕也を射抜くような鋭い目線で見る。
「おれは、一般人相手にここまでやったのは初めてだ」
「そりゃあ、光栄なことで。」
 また軽薄な笑みを浮かべた裕也は、今度は左脚が裂かれた。裕也の白い脚を、赤い血が静かに辿った。
 イビキの眼光が鋭くなる。
「あの日気配も無く突然現れたというのは、お前か」
「ああ、狐空さんに聞いたんですか? 彼、元気ですか?」
「侵入を悟られずに木の葉の里へ侵入するなど、無理だ。」実際には狐空から直接聞いたわけではないのだが、イビキは裕也の話を無視した。「それに、お前のチャクラの流れは完全に一般人者だ。お前は術が使えないはず。どうやって来たんだ。どうやって、里へ侵入した?」
「だからそれはおれも知りたいなぁ〜って!」
 また拘束が強くなる。
 痛みに顔を歪める裕也に、一切の情を持たない冷酷な目を向ける。
「目的は何だ? 何のために木の葉に侵入した」
「痛てて…。だからおれは別に来たくて来たわけじゃないんですってば」
「真面目に答えろ!」
 イビキの顔が怒りで険しくなる一方、裕也は笑顔のまま答えた。「まったく。おっさんマジで話にならねぇなぁ〜」

 ドゴッ!

 意識が一瞬飛ぶ。
 裕也は殴られた。
 頬にクリーンヒット。激痛が襲う。頭蓋骨と脳みそがぐらぐらと揺れる。
 自分の5倍はありそうな巨体の男に、本気で殴られた。躊躇も何もなく、力の限り。
 口からか鼻からか出た血が、隣の暗い壁面に飛んだ。
 整った秀麗な顔立ちの裕也の、白い頬が、痛々しく大きく紫に腫れあがっている。
 痛みでぐったりした裕也の顔を、髪をわしづかむことでイビキは無理やり起こした。「うっ、」と衰弱した声がこぼれた。
 先ほどまでヘラヘラとした軽薄な笑みを浮かべていた眼は、今は力なく閉じられている。長い睫毛が弱弱しく頬に陰りを作っていた。ぐったりと頭をもたげている人形のようだ。

 閉じられた視界の中。近くなった体温と吐息から、イビキがグイと顔を近づけてきたことが分かった。しかし裕也は無反応。眼を閉じたままだ。もう一度、今度は軽く頬をパンと叩かれる。無反応。死んだようにぐったりとしている。先ほどの暴力で脳みそがまだ揺れているのかもしれない。もしかしたら頭蓋骨が破損し、脳が内出血を起こしているのかもしれない。あんなに、いっそこちらを挑発する勢いで饒舌だった少年が、今は死んでいるようだった。

 低い声。
「内海裕也。お前、うずまきナルトと接触したようだな。」
 裕也の手がピクリと反応する。
「商店街でうずまきナルトと仲良さそうに歩いていたそうじゃないか。どういう目的のパフォーマンスだ? 人柱力としてのうずまきナルトの九尾狙いか? この里の侵入の目的は、人柱力狙いだろう。うずまきナルトの中の化け物を利用しようという魂胆だな。そうでもなきゃあ、この里の連中は、あんな里のタブーとされている『忌み子』とわざわざ馴れ合わないからな。何の狙いも無く化け物とつるむ人間はいないさ」

 その瞬間。

 ガシッ!

 裕也を抑えていたイビキの腕が、突然、掴まれた。

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