「 3 」

 彼女は俺の顔をジッと見つめた後、そのまま顔を逸らし、何事もなかったかのように俺の横をすり抜けて出口へ去っていった。
 何事もなかったかのように、というか、ただ『屋上で火影岩を眺めていた少女がこちらに気付いて屋上を出て行った』だけの話で、実際にとくに何もなかったのだが、俺にとってはなぜか非常に重い出来事となった。
 彼女と目があってから去っていくまでが、とてつもなく長い時間、むしろ永遠にも感じられたが、きっとあれは実際の時間にして5秒あるかないかのことだったのだろう。

 彼女の残り香を感じながら、自分の胸に手をあて、うなだれる。
「…あー、やれやれ、めんどくせぇことになった…」

 分からないことだらけだが、ひとつ確かなことがある。
 それは、俺が彼女に興味を持ってしまった、ということである。なぜかは分からない。ただ、俺のアンテナに引っかかる人物だった。きっと、何かある。

 今までの素晴らしき退屈で平穏な時間が終わる。
 そんな予感がした。

end

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