「 5 」

 突然、裕也は透明な壁に囲まれた。


「お前に結界を張った」


 無機質な声で狐空は言う。「俺が作った結界だから、よほどのことがない限り決壊しない。」
 裕也は不思議そうに、手をのばす。何か固いものに爪がぶつかる。それは360度すべての方向に張り巡らされているようだった。
 ――いきなり俺を閉じ込めて、何のつもりだ?
 軽薄な笑みを少し崩し、軽く眉間にしわを寄せ、狐空を見遣る。その金糸の麗人は、相変わらず腕を組み近くの木にもたれかかっていた。


「俺は任務中なんだ。あと2分ほどで、この場所に他国の暗部が20人押し寄せる。今からそいつらの相手をする」

「独りで?」

「俺はいつも独りだ。足手まといは要らないからな。……それはいい。ともかく、お前には『本来の俺』を見てもらう。独りで何人もの人間を遊び半分で殺害する、化け物めいた暗部総隊長サマをな」


 自嘲ぎみな声。
 『暗部って何』とか『そんな風に化け物とか言うなよ』とか言いたいことはあったが、裕也は黙った。空気が一瞬で鋭くなったからだ。

 月が出てきた。
 月光が狐空の姿をあばく。
 彼は、森の奥の一点を見詰めていた。まるでそこに何かがあるように。
 腕を組み、悠然と立つ。夜風が彼の美しい金糸を靡かせる。仮面のせいで彼の顔は見えないが、きっと何の表情も載せていないのだろう、と裕也は思った。


「――来た」


 狐空はクスリ、と口端を上げると、おもむろに右腕を上げた。顔の前だ。そして、何かを掴んだ。クナイ。刃が彼の顔に向いている。
 速過ぎて裕也には見えなかったが、どうやら狐空は飛んできたクナイを素手で掴んだらしい。(もちろん柄をだ。)
 間もなく大勢の忍たちが狐空の前に現れた。空気から生まれたように、突然顕現した。もしかしたら近くの木から飛び降りたのかもしれないが、やはり速過ぎて裕也には分からなかった。
 そのうちの一人が声を出す。弾んだ声だ。


「木ノ葉の人手不足は深刻のようだな! 俺ら霧の国の暗部相手に、ガキ一人とはな! かわいそーに」

「楽勝じゃね!? ついでに火影の首でも土産にしてみるか」


 ゲラゲラと下品な笑いをする忍たち。みな一様に白い仮面をかぶり、真っ黒の外套を羽織っている。目に見える勝利に酔っている。
 ――結界の中の俺は、見えないみたいだな。
 裕也は男たちの言葉から、そう判断した。それに、20歳くらいの狐空を『ガキ』というからには、男たちは壮年期だろう。
 大勢の男たちと対峙する、細い青年。
 それに、今思ったのだが、彼の輝かしい長い金髪は不利なのではないだろうか。いまも月光を浴び、キラキラと光っている。相手は髪を、頭ごとすっぽり漆黒のフードに隠しているというのに。闇に紛れるため。

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