「 3 」

 一通り洗いものを済ませた後、テーブルに戻る。ナルト少年の肩を揺すり「風邪引くぜ」と言うが、起きる様子がない。すやすやと気持ち良さそうに寝ている。

 裕也は彼を抱き上げた。軽い。肩に少年の頭を載せて、背中と尻に腕を回し、支える。そのまま寝室へ行き、ベッドに腰かけた。暗い室内。抑揚の欠落した声を出す。


「いま、俺のことを殺そうとしているね、狐空」


 言った瞬間、少年の指先がピクリと震えた。

 しかしそれを意に介さず、裕也はちょうどすぐ傍にある耳に唇を寄せる。
 適度に低い、吐息混じりの甘い声で囁く。


「やっぱり、バレちゃマズイことだったんだな。嫌がるあんたを無理やり商店街へ連れ出したり、秘密を見破っちゃったり、悪かったね」

「……」

「でも、俺の前では、その滑稽な演技はやめて。無駄だから。それに、四六時中芝居を打つのは、疲れるだろ? せめて俺の前では素でいろよ。俺は明るい仮面のあんたも好きだけど、素のあんたのほうが好きだ。まあ笑えないのに無理に笑ってるのは嫌いだけど」


 という甘い言葉は、半分が嘘である。
 素でいて欲しいのは『そのバレバレな演技見てると腹立つんだよ』という理由からであり、『素のお前のほうが好きだ』ということからではない。
 しかし裕也はそんな攻撃的なことは、決して口にしない。内心の寒々とした心情とは真逆の温かい言葉を、とろけそうな甘い声で囁く。

 彼は少年をベッドに降ろし、布団をかけてやる。どうせ他人のベッドでは寝ないだろうが。


「まぁ、気長に待つよ。あんたが賢いことを祈ってね」


 そう言い残し、裕也は寝室を去った。


end

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