「 5 」

 ̄ ̄ ̄

 店で。
 裕也は自分の魅力を熟知していた。


「ありがとう、お姉さん。大好きだよ」


 低く甘い声で囁き、トドメに蜂蜜スマイル。
 いま裕也に囁かれた店員(どう見てもオバさん)は顔を真っ赤にし、「これも貰ってって!」と野菜を彼に押し付ける。
 「こんなに、悪いよ」と目を丸くしながら、ちゃっかり全部受け取る裕也。
 今、彼の手には、手提げ袋がさがっている。なかなかの大きさのこの袋は、洋品店で彼が口説いた女性からプレゼントされたものだ。しかも、この袋は既に満杯であった。洗剤や歯ブラシなどの日用品から、野菜や肉などの食料まで。
 それを冷めた目で見るナルト。
 ――こいつ、商店街に来てから、一度も金を使ってない。信じられねぇよ、全く。
 裕也は別れ際に、店員に「次来たときは、もう少しお話しようか。旦那さんに怒られない程度にね。」と言って目を細めた。次もまた貢がせる気に違いない。
 貰った野菜を袋に入れながら、彼はナルトに微笑む。


「待たせたね。行こうか」


 実際、2、3分しか待たされていないのだが。
 裕也はまたナルトの手に指を絡めた。歩き出す。
 彼は大荷物を抱えているのに、全く重いそぶりは見せない。「手伝うってばよー」と進言されても「あんたみたいなガキに持たせたら、俺のプライドに傷がつく」とヘラヘラ笑う。右手に荷物、左手にナルト。
 彼は上機嫌らしく、鼻唄をうたっていた。異国の歌。ナルトは聞いたことが無かったし、歌詞も何て言っているのか分からなかった。
 「何て曲だってば?」6cm上の裕也を見上げて尋ねる。
 裕也は鼻唄を中断させ、ナルト少年に優しげな笑みを向ける。


「Yesterday Once More」

「は?」

「俺の母国の曲」


 聞き慣れない発音だった。少なくとも、ナルトの知っている言語のなかには無い。
 その疑問を口にしようとすると、先に裕也に遮られた。


「俺もまだまだイケるね。彼女10人くらい作れそう。一銭も出さないで全部揃えられたなんて、神業だ」

「兄ちゃん、最低だってばよ」

「まあまあ。ところで、もう必要なものは無いから、帰るか」


 花が綻ぶような笑み。目が細められるのと同時に、長い睫毛が頬に影をつくる。桃色の唇が緩く弧を描く。もともと甘くて色気のある顔立ちの彼が微笑むと、ますます魅力が引き立つ。
 その微笑を直視したナルト少年は、遠い気持ちになった。
 ――あー、この顔で女達を篭絡していったんだな。これは落ちるのも道理だ。
 それに、彼の武器は、この顔だけではない。彼の声もだ。彼の声は非凡で、適度に低く艶のある声をしている。いっそ性的な、官能的で、蠱惑的なものだ。…恐ろしい奴め。
 そんなことを思いながら、「おう!」と元気よく返事する。手をつないだまま、商店街を出る。

 帰り道は、来たときよりも足取りが軽かった。
 裕也はさりげなく人通りの少ない道を選びつつ、ナルトを退屈させないように会話する。まぁ、会話といっても、ナルトが一人でベラベラ喋っているのを、相槌をうちつつ聞いているだけなのだが。しかしいちいち驚いたり感嘆したりしてくれるので、ナルトもますます饒舌になった。
 そうして、あっという間にアパートに着いた。



end

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