「 2 」

 「あ、そういえば!」ナルト少年が興奮して言う。「兄ちゃんに渡すものがあったんだ。火影サマから預かってて。いま持ってくるってば!」
 またドタドタと奥へ引っ込んだ少年。
 ――『兄ちゃん』か。
 あくまで名前を呼ばないつもりか。俺も嫌われたもんだ。
 そんなことを思っていると、ナルト少年が戻って来た。じゃらじゃらと音を立てる袋を抱えている。


「これ! 千両! 生活資金だって。大金だから無くすなってばよ」


 この世界の通貨は『両』らしい。
 千両は大金らしい。なんだか知らないが金を手に入れた。ホカゲ様に感謝。
 少年の手から、その膨らんだ袋を受け取る。手が触れ合う。その瞬間、その手を引き寄せた。少年が裕也の胸に崩れてくる。それを(胸があることを悟らせないために)支え、裕也は甘く微笑んだ。


「デートしようぜ」

「……は?」


 その瞠目した顔が狐空にそっくりで、裕也はニヤリと笑った。


「せっかく金を手に入れたんだ。使いたいし、それに俺はどこに店があるのかも知らないんだ」

「店なら、あそこを左に曲がって真っすぐ行けば商店街が……」

「あんたが一緒じゃないと意味がないんだよ」


 遠くの景色を指差していた少年の手を、やんわりと押さえ、裕也は蜜のような笑みを浮かべる。
 少年はよく分からない表情を浮かべ、すこし背の高い裕也を見ていた。少しして開口する。抑揚の欠けた声。


「俺と一緒に行くのは、マズイってば。兄ちゃんまで、嫌な思いをする」

「よく分からないんだけど」

「じきに分かるってばよ」


 そう静かに言ったナルト少年の表情を、裕也は見逃さなかった。
 悲しげだった。あの表情は演技ではなかった。本音だった。垣間見せた、ほんの一部の弱さだった。
 裕也の腕の中で少年が抵抗を始めた。しかし裕也が許さない。離さない。


「俺、あんたに惹かれてるんだ」


 ぼそりと言ったその言葉に、少年の抵抗が止んだ。代わりに蔑んだ目を向けられる。『誰にでも言うんだな。』そう言われた気がした。
 それも一瞬のことで、すぐにナルト少年は陽気な雰囲気を纏い、「照れるってばよー、…っていうかお前も男じゃん!」と突っ込む。裕也はヘラヘラと笑う。
 少年の髪を梳いた。もともとストレートな髪を立てているらしく、指に整髪剤が絡み付いた。
 ――態度といい外見といい、ご苦労なことだ。
 心の中は寒々としていたが、表情はあくまで甘い。砂糖のような微笑み。


「どうしても行かないっていうんなら、俺があんたを買うよ。900両で。バイトだと思って俺に付き合って」


 そう言って、強引にナルトを連れ出した。

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