「以蔵…今日も良い?」

「…っ、」


自分の顔が見る間にこわばっていくのが分かった。
今は夜、ここは俺の部屋。
恋仲になったばかりの朋美が俺の部屋に…
それだけでも理性など無くなってしまいそうなのにこいつは…
俺は昨晩の出来事を思い出して頭を抱えた。

昨晩、朋美は寝付けなくて俺の部屋に来た。
そして…、


「ねえ…駄目?」

「…わかった、来い」


朋美の言葉が俺の思考を遮る。
そんな潤んだ目で見つめられては、断れるはずがない。
それは悔しいけれど何処か幸せで思わず口が緩んだ。


「じゃあ遠慮なく」

「…ああ」


俺の返事を聞くと、途端に花が咲いた様に笑う朋美
すぐ近くに向き合って座るとそのまま小さな手が伸びてきて…

俺の胸にそっと触れた。


─そもそも、こいつは俺の筋肉が好きだ。

『以蔵の筋肉…すごい』

『…誰にでもある』

『でも、以蔵が一番ある』

そう言って俺の腕を幸せそうに眺めていたのが始まりだった。
…まだ互いに意識などしていなかった頃の事だ。
そして恋仲になった今も、それは変わらない。




朋美の手は俺の腹に巻かれたさらし布の上をつつき始める


「固い…」


俺の筋肉を触る朋美は何よりも幸せそうだ。

…何よりも。
そう考えると何故か胸の奥がもやもやとする。
だが俺は平常心を装って朋美に声を掛けた。


「そろそろ寝るぞ」

「…うん」


敷いてあった布団に横たわって腕を横に伸ばすと、笑顔でその上に頭を乗せた。
幸せそうに「今日もすごい筋肉」だとか呟いて擦り寄っている。


─これだ、俺が顔をこわばらせた理由は。
昨晩もこうして二人で寝た。
好いている女と、何もせずに寝た。
それが男にとってどれだけ辛い事かこいつにはわからないだろう…

だが朋美は純な女だからな、と一人結論付けて
朋美の頭に手を置き、そっと梳いてやる。


「…ん、以蔵…」


朋美は気持ち良さそうな顔をして俺の名を甘く呟くと、今まで頭を乗せていた腕に柔かく噛み付いた。


「っ…おい、」


思わず力んだ俺の腕に朋美は再び噛み付く
少しの痛みと、それ以上に沸き上がる色欲。


「…っく、」


くしゃりと朋美の髪を指に絡ませるともっと朋美が欲しくなった。
腕を抜いてそっと覆い被さる


「いぞう…?」

「…何故こんな事をした?」

「ごめんなさい…撫でられたのが、気持ちよくて…」

「そうか、」

「後、筋肉が…」


目を伏せる朋美の言葉の先を言わせない様に唇を乱暴に奪った。

…漸くもやもやの正体に気付いた
俺は筋肉より俺を見て欲しかった。
俺自身を感じて欲しかった。


初めは一方的に絡めていた舌は気付くと互いを求めあっていた。
朋美から洩れるくぐもった甘い声は俺をぞくりと昂らせる





ひとしきり朋美を堪能した後、ゆっくりと唇を離すと
口元に付いた二人の唾液が外気に触れてひやりとした。


「…以蔵、」


蕩けそうな朋美の目は俺を見ていた。

…俺を。

それに気付いた途端すっと胸が軽くなった気がした。
朋美の口の周りに付いている少し冷えた蜜を舐めとると、うっとりと目を細めて俺に笑い掛ける


「以蔵…大好き」

「……ああ」

「ふふ、赤くなった」

「…お前の顔も赤いぞ」


わかってるもん、と顔を背けようとした朋美の後頭部に手を回して固定する。
そのままもう一度軽い口付けを交わして腕に頭を乗せた。


「…今度は筋肉って騒がないんだな」

「騒いでいいの…?」

「今は駄目だっ」


俺が勢い良くそう答えると朋美はくすくすと笑いだした。
…どうしたんだこいつは。


「私は以蔵の筋肉が大好きだけど、以蔵はもっと好きだよ…きゃっ!?」


─気付けば俺は朋美を胸に押し付けていた。
愛しいと言う感情が次々と絶え間なく沸き上がって俺の心を満たしていく。


「次に俺と寝る時は…きっと寝れないと覚悟しておけ」

「…うん、」


大人しく胸に顔をうずめて答える朋美を壊さないように優しく抱き締めて俺は静かに笑った。


「もう寝るぞ…」

「うん…」






暫くして静かに寝息をたて始めた朋美の頬を起こさない様にゆるゆるとなぞる。
こいつはきっと、俺が愛した最初で最後の女になるだろう…それが俺の筋肉をも好いている女だなんて。
だが俺だって、柔らかい朋美の身体に触れたいと思っている。


…俺も人の事は言えないな。
口元が緩みそうになるのを堪えて、朋美の手をそっと、こいつが好きだと言う胸に触れさせた。


幸せそうに眠る朋美と幸せな未来を作りたい…
そんな事を考えながら、俺も暖かい眠りに落ちていった。



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もちさん宅から頂いてきました!1万打おめでとうございます◎ 一度は以蔵の筋肉触ってみたいですな(^O^)w それにしても以蔵我慢強いね!←



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