小説 | ナノ




何処に向かっているのかは、すぐに分かった。
道場の方だ。
からりと道場の戸を銀時が開ける。

「てめぇ、ここに何の用だよ?」
「お前、俺とやりたかったんだろ?」

高杉の疑問に答えなかった銀時は、いつもぼんやりとした瞳が少しだけ鋭くなり、唇が吊り上がっている。その表情に高杉は、ぞくりとした妙な感覚が背中に這い回り、銀時から目が離せなくなった。


「本当は、先生からまだ誰ともやるなって言われてんだけど、相手してやるよ」

誕生日の贈り物代わりだ、と告げる声は酷く傲慢で潔く凛として響いた。


防具を着ける高杉は、自分が高揚しているのを感じた。
体は火照るように暑いのに、頭の芯はどこか冷めているような感覚。
高杉は己が負ける事が嫌いで、相手を屈服させたい欲求の強い人間である事を理解している。所謂サディストなのだろうと自覚し、受け入れ、学問や剣術は好きだが、他者を屈服させるためにそれに精を出している反面も自覚していた。
今は、この銀色の生き物を屈服させたくて仕方なかった。

 あんな口聞けなくしてやる、と思いつつ高杉は面を着ける。
静かな道場で面越しに見つめ合いながら、竹刀を構え合う。
風の音、蝉の声、遠くに聞こえる鴉の鳴き声。
蝉の声が途切れると同時に、二人は床を蹴った。

 ぱぁぁぁぁっん!

竹刀のぶつかる音が、響いた。

高杉さん誕生日おめでとう。